ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

「毒親」の「毒」とは?親を理解できない苦しみを描く

謎の毒親 』の

イラストブックレビューです。

 

 

母の一周忌を済ませた週末、光世は大学時代に通っていた文容堂書店へ
数十年ぶりに訪れた。店に貼られていた「城北新報」の相談コーナーへ、
自分が両親から受けた様々な行為について相談してみようと思い、PCの
電源を入れた。

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城北新報は、文容堂の主人夫婦が作成していたものでした。これをよく
眺めていた光世は、お店側としても印象に残っていたようで、封書で送られてきた
光世の疑問に、ご夫婦が答えてくれます。

最初の相談内容は、小学生の頃に学校で起こったほんのささいな、でも不思議な出来事。ここに両親の話題は少ししか出ていませんが、先生の理不尽さが垣間見えます。
何か問題が起こった時に、説明する言葉を持たない子供に対して、話を聞こうとせず、
一方的に自分の考えを押し付け、子供の立場を踏みにじるのです。

それから、光世は両親に受けた不可解で恐ろしかった出来事について、相談していきます。光世が受けた行為としては、父親から突然怒鳴られる、両親と外食に出かけ、光世がトイレに行っている間に二人に置いて行かれ、さらに勝手に一人で出歩くなと両親に
キレられる。運動会の駆けっこではじめて一等になった報告をしたら「くだらない」と
一蹴される。街中で友人といたところを見た母親が、自分の方を見て「そちらは?」
と友人に尋ねる。

なんというか、背筋が寒くなる出来事ばかりです。障害を疑いたくなるような、ギリギリのラインではないでしょうか。一番怖いのは、両親が光世を傷つけてやろうとか、
小さい子供は嫌いだ、とか、そういった明確な悪意のようなものがないという点です。
ただひたすら感情のままに怒鳴ったり、行動したり。前後関係において整合性がないので、子供は混乱するしかありません。何をしたら怒るのかが全くわからないのですから。

しかし、光世は自分は直接暴力を振るわれたわけでもなく、食事も食べさせてもらったし、学校にも行かせてもらった。だから「毒親」と言うのはちょっと違うのではないか?と相談者に訴えています。

いや、充分毒親だろ、とこちらとしては思うのですが、光世の両親に対する思いを
尊重した店主は「謎の毒親」という名称ではどうか、と提案してきます。
謎の、とつくだけでだいぶマイルドに、世間で言われている、子どもを死や病気に追い込むようなひどい毒親、という像から少し距離を置いたように感じます。

光世は両親の事を他人に相談せず、ずっと自分の心の中に閉まってきました。
それは、両親が亡くなったことで、ようやく「親を貶めるようなことを言っては
いけない」という呪縛からとかれたのでしょう。ほんの一部(というのも怖い)を
明かしたことで、心の重荷を下ろし、スッキリしたのではないでしょうか。

親というものは、それほどに子供の心に大きな枷をつけることがあるのです。
子どもという人格を理解できない、子どもが「考えている」ということ自体理解できない親が、本当の「毒親」と言えるのかもしれません。

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