ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

ぽっかりと空いた穴を抱えて生きていく

骨を彩る 』の

イラストブックレビューです。

編集

 

十年前に妻をガンで亡くした津村は、中学生の娘と二人暮らし。
最近、心揺れる女性に出会ったが、たびたび妻が夢の中に現れるようになった。
夢の中にあらわれるたびに、妻の手の指は一本ずつ減っていた。
喪失感を抱えた人々の姿を描く。

f:id:nukoco:20190329115948j:plain 

妻をガンで失った夫、その夫と交際した女性、その女性の友人、その友人が旅先で
出会った女子大生の友人、そして夫の中学生の娘、と少しずつ関わりのある人たちが
皆それぞれに抱える喪失感を、日常の景色の中から感じていく物語です。

大腸ガンで亡くなった妻は享年二十九歳。男手ひとつで育ててきた娘、朝子は中学生
になりました。小さな不動産事務所を営む津村は、この頃気になる女性が現れ、娘の
朝子も反対ではない様子です。しかし、なぜか夢の中に妻が登場するようになったの
です。そして、その妻の指が、見るたびに一本ずつ少なくなっていくのです。

津村の、亡くなった妻への罪悪感が、そんな夢を見せるのでしょうか。
しかし、津村の交際相手である光恵も、心にぽっかりと空いた空洞のようなものを
持っていて、その闇に引きずり込まれないようにするために、千代紙に熱中します。
美しい柄を眺めて、紙を切ったり折ったりしている時だけ、何も考えずに過ごすことが
できたのです。別れた夫が自分を捨て、若い女に向かったことを。

そんな、未だ不安定な状態にある光恵との交際に、もしかしたら亡き妻は警告を発して
いたのかもしれません。津村の見る夢は、まだ朝子が産まれていない頃だったり、
朝子に幼い頃だったりします。夢の中の妻は幸せそうに笑っています。

しかし、妻が残した手帳には「誰もわかってくれない」の一文が。
病気の辛さか、育児の困難に対してか、夫への不満なのか。
死んでしまった今では、確認する術はありません。しかし、過去の妻とのやりとりを
夢で見るうちに、津村は妻が娘に見せたかったという美しい景色を思い出します。

それぞれの話の中で、美しい景色が描かれます。黄金のイチョウの葉が一面に敷き
詰められた道。色とりどりに美しい柄が散りばめられた千代紙。雪の被さった観音像。
それらが、喪失感を持つ人々の心に響き、忘れていたものを思い出させたり、明日へ
向いて歩いていく力を与えてくれたりするのです。

「答えの出ない問題」というものがあります。過ぎ去ったものや、なくしてしまった
ものは、考えが堂々巡りになり、なかなか答えというものを見つけることはできない
ものです。問題と距離を置いて、上手につきあえるようになるには、何気なく見ている
風景の中から見える美しさに気づいたときや、今共に過ごす人たちのかけがえのない
ことに気づいた時なのかもしれません。

その気づきを得た瞬間、その穴は闇から光に変わっていく。
そんな風に感じる物語でした。

にほんブログ村 本ブログへ