『骨を彩る 』の
イラストブックレビューです。
-
-
- 作者: 彩瀬まる
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2017/02/07
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る
-
十年前に妻をガンで亡くした津村は、中学生の娘と二人暮らし。
最近、心揺れる女性に出会ったが、たびたび妻が夢の中に現れるようになった。
夢の中にあらわれるたびに、妻の手の指は一本ずつ減っていた。
喪失感を抱えた人々の姿を描く。
妻をガンで失った夫、その夫と交際した女性、その女性の友人、その友人が旅先で
出会った女子大生の友人、そして夫の中学生の娘、と少しずつ関わりのある人たちが
皆それぞれに抱える喪失感を、日常の景色の中から感じていく物語です。
大腸ガンで亡くなった妻は享年二十九歳。男手ひとつで育ててきた娘、朝子は中学生
になりました。小さな不動産事務所を営む津村は、この頃気になる女性が現れ、娘の
朝子も反対ではない様子です。しかし、なぜか夢の中に妻が登場するようになったの
です。そして、その妻の指が、見るたびに一本ずつ少なくなっていくのです。
津村の、亡くなった妻への罪悪感が、そんな夢を見せるのでしょうか。
しかし、津村の交際相手である光恵も、心にぽっかりと空いた空洞のようなものを
持っていて、その闇に引きずり込まれないようにするために、千代紙に熱中します。
美しい柄を眺めて、紙を切ったり折ったりしている時だけ、何も考えずに過ごすことが
できたのです。別れた夫が自分を捨て、若い女に向かったことを。
そんな、未だ不安定な状態にある光恵との交際に、もしかしたら亡き妻は警告を発して
いたのかもしれません。津村の見る夢は、まだ朝子が産まれていない頃だったり、
朝子に幼い頃だったりします。夢の中の妻は幸せそうに笑っています。
しかし、妻が残した手帳には「誰もわかってくれない」の一文が。
病気の辛さか、育児の困難に対してか、夫への不満なのか。
死んでしまった今では、確認する術はありません。しかし、過去の妻とのやりとりを
夢で見るうちに、津村は妻が娘に見せたかったという美しい景色を思い出します。
それぞれの話の中で、美しい景色が描かれます。黄金のイチョウの葉が一面に敷き
詰められた道。色とりどりに美しい柄が散りばめられた千代紙。雪の被さった観音像。
それらが、喪失感を持つ人々の心に響き、忘れていたものを思い出させたり、明日へ
向いて歩いていく力を与えてくれたりするのです。
「答えの出ない問題」というものがあります。過ぎ去ったものや、なくしてしまった
ものは、考えが堂々巡りになり、なかなか答えというものを見つけることはできない
ものです。問題と距離を置いて、上手につきあえるようになるには、何気なく見ている
風景の中から見える美しさに気づいたときや、今共に過ごす人たちのかけがえのない
ことに気づいた時なのかもしれません。
その気づきを得た瞬間、その穴は闇から光に変わっていく。
そんな風に感じる物語でした。