ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

ワインとともに成長していく双子の姉弟の物語

月のぶどう 』の

イラストブックレビューです。

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大阪で、祖父母の代から続くワイナリーを営み、発展させてきた母が亡くなった。
仕事のできる母親を目標にしてきた光実は、あらゆることから逃げて来た双子の弟、
歩とともに、家業を継ぐ事を決意する。ワインづくり通して成長していく双子の
姉弟の物語。

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母は祖父から小さなワイナリーを継ぎ、自分たちが作ったワインを、本当に求めて
いる人に飲んでもらいたいと、醸造所の見学会を開き、試飲させるだけでなく、
レストランの料理人を招いて、その料理とともに提供したりといろいろ工夫してきました。なんでもソツなくこなす、優秀な母親だったのです。

双子の姉、光実はそんな母に憧れ、ワイナリーを継ぐという夢を幼い頃から持っていて、二十六歳の今は、念願叶ってワイナリーで働いています。母からいろんな事を教わっていこうと思っていた矢先の出来事で、光実は強いショックを受けます。

一方、双子の弟、歩は自分に向いていることは何なのかが未だによくわかりません。
幼い頃からしっかり者の光実と比較され「できの悪いほう」と呼ばれても、実際に
そうだからと諦めているような状況です。実家のワイナリーに対しても、「たかが
ワインだろ」と心の中では冷めた思いを持っています。現在は叔母の経営する
カフェでアルバイトをしています。

母が亡くなったことで、光実は歩にもワイナリーを手伝って欲しい、と頼みます。
意地っ張りで頑張り屋の光実の頼みを断れない理由が歩にはあるのです。

ワイナリーで働く日野さんのぶっきらぼうな態度、森園君が見せる歩への明らかな
敵意。やる気がない上に針のムシロ状態の歩。ワインに対しての情熱のなさが、
彼らに伝わってしまっていたようです。

ぶどうを育てる作業でクタクタになるまで体を使い、苦労して育てた葡萄の醸造
かかる頃には、歩は最初の頼りない様子から少しずつ変わっていきます。
これまでは、夢を持たない、何にもなれない自分を卑下するような部分がありました。
しかし、夢でなくても、目の前のやらなきゃならない事を「やるんだ」と決意し、
腹を括ったことで歩自身の発言や行動が変わってくるのです。

子どもの頃の出来事から、自分は秀でたものは何も持っていない、と思い込んでいた歩。しかし、物事に対する素直な目線や、細やかな気遣いは周囲の人をホッとさせるものがあります。一方で姉の光実は、頑張りすぎて弱音を吐けない体質。他人のアドバイスも受け入れない頑固さも持ち合わせています。しかし、ワインづくりへの情熱は
誰よりも強いと、自分でも思っていたのですが…。

全く性格の違う双子の姉と弟。向ける視線の先は違うけれども、同じ道を選んだ
二人。それぞれの価値観とペースで、ワインづくりを通して、自分と向き合い、
そして成長していく姿に胸が熱くなります。大切に、大切に手をかけられたワインは
多くの手と時間と愛情をかけて作られるもの。彼らもそのように、多くの手と愛情を
かけられてきたのだなあと感じる、なんだか愛しい気持ちになる物語です。

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