ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

アツい書店員がいる限り、本屋さんは存在し続ける

書店ガール 7(旅立ち) 』の

イラストブックレビューです。

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中学校の図書館の司書として働き、生徒たちのビブリオバトル開催を
手伝う愛奈。故郷の沼津に戻り、ブックカフェの開業に力を入れる彩加。
仙台の歴史ある書店の、閉店騒動の渦中にいる理子、そして再び書店で
働き始める亜紀。それぞれの「書店ガール」たちが、情熱を持って
本に関わる仕事に取り組む物語。

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「書店ガール」第7弾にして最終巻です。かつて一緒に働いたこともある
書店ガールたちは、7年の時を経て、それぞれに環境が変化していきました。

私立の中高一貫校で司書教諭を務め、読書クラブの顧問もしている愛奈。
故郷の沼津に戻り、叔母の書店を引き継ぎ、ブックカフェとして立ち上げようと
準備中の彩加。新興堂吉祥寺店の店長かつ、新興堂グループの東日本エリア・
マネージャーとして、エリア内書店の売り上げや出店、閉店などを管理している理子。
そして、出産後内勤となっていた亜紀はいよいよ書店に戻ってくる。

不況と言われる出版業界。
「書店ガール」シリーズは、そんな出版界のリアルな状況を絡めつつ、そして
常に明日を見つめる目線を持った女性たち描いた物語です。

老舗や小さな書店が吸収合併されたり、閉店となる事態が後を絶ちません。
理子が担当する仙台の老舗、櫂文堂も閉店の対象に。慎重に進めるつもりで
いた理子ですが、ふとしたことから情報が漏れ、しかも櫂文堂の書店員が
SNSで発信し、閉店反対を訴え、地元の有名人や市役所まで巻き込んでの
大騒動に。

九十九年の歴史を持つ書店であり、仙台の町の文化発信地。本を売る、という
こと以上に、地元の人にとっては大切な場所であることが伺えます。
しかし、理子には店の継続を主張できる立場にはなく。しかも、取次と
合併した新興堂グループの、理子の上司に当たるトップの責任者は取次の人間。
利益を上げるために合併したのだから、利益を下げる書店を切っていく、という
理論は当然であり、理子にはどうすることもできません。

かつて版元に勤めていた者としては、あら、これ実話ですか?というくらい
毎回設定がしっかりしていますね。自分が理子の立場だったら苦しくて仕方が
ないと思います。お客様にめちゃ愛されて、九十九年も続いた書店を閉店させるのが
自分の役割とは…。お客様の気持ちも、書店員の気持ちも痛いほどに理解しながら
閉店を止めることができないのですから。

そして、以前ちょっとだけいい雰囲気になった櫂文堂の沢村店長とも、仕事上での
ピリピリとしたやりとりや、沢村店長自身の、一歩先へ進みだした様子が描かれています。
震災で妻を失い、心に大きな傷を抱えていた沢村店長も、立ち止まっていないんだな、
前を見て動き出しているのだな、という事実に胸が熱くなります。

この閉店騒動の結末は、結果だけ言ったら、理子は「負け」なのかもしれませんが、
彼女なりの軸に基づいて最大限に闘い、ベストな結果を得ることができたのでは
ないでしょうか。
結果として本部を去ることになりましたが、その武勇伝は彼女の仕事ぶりに対する
評価が、現場でより高まった、ということになるのでしょう。
吉祥寺の女傑は、場所を変えて、誰かのための特別な一冊を届けるために、
全力をつくすのです。

書店の現状、働くリアルを描いた書店ガールシリーズが完結してしまうのは
とてもさみしいです。しかし、彼女たちのように、お客様の喜ぶ本を届けたい、
というアツい思い持った書店員さんたちがいる限り、本屋さんは存在し続けて
いくでしょう。彼女達がいる店へ、場所へ行ってみたいものだな、と毎回思わせて
くれるシリーズでした。

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