ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

この上なく心地よい、女四人の共同生活

あの家に暮らす四人の女 』の

イラストブックレビューです。

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父を知らずに育った、三十七歳独身の刺繍作家、佐知は杉並にある古い洋館に
住んでいる。同居人は佐知の母親である鶴代、佐知の友人の雪乃、その
後輩である多恵美。女が四人で暮らす日々は、笑いと珍事に溢れている。

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住んでいたアパートが水漏れの被害に遭い、佐知の家に世話になることになった
毒舌の雪乃。元彼がストーカーとなり、待ち伏せしていることがあるという、
雪乃の後輩で少々脇の甘い多恵美。働いたことがなく、限りなく自由な言動と
行動をする佐知の母、鶴代。刺繍を始めれば集中して頭の中が真っ白になり、
そうでないときはすぐに妄想の世界へと旅立つ佐知。そして、洋館の敷地内の小屋に
住む老人、山田さん。 彼らのおかしくもあたたかな日常を描く。

佐知の家は、曽祖父の時代に一財産を築き、祖父の代で目減りし、鶴代の
代で、鶴代が困らずに食べていけるだけの貯金があり、佐知の代はそこまでの
貯金はなく、つつましく暮らせば何とかなるだろうという暮らしぶり。
洋館は古いが敷地は広く、何と敷地内には守衛小屋があり、山田さんという
老人が住んでいます。

庭や家のメンテナンスは手の届かないところも多く、化け物屋敷と噂される
こともあるけれど、まあ、広い洋館に住む、お金持ちの母娘ってとこです。
しかも敷地内には、勝手に見張りをしてくれる老人もいるという。

そこへ、女性二人が転がり込んで来て、奇妙でおかしな共同生活がはじまります。
食事や掃除など、当番のルールはきっちりと守る四人。しかしながら、それぞれの
キャラが際立っていて、 次々とトラブルが巻き起こっていくのです。

気分転換は伊勢丹で買い物、という鶴代。すぐに妄想の世界へと入り込んでしまう
佐知。この母娘は時に互いを面倒だな、と思いつつも、言いたい事をハッキリと
言い合う、仲がいいと言える関係です。しかし、どんな状況になっても頑として
佐知の父親について語らない鶴代。それが、同居人たちの力により、父親の秘密が
明かされることになるのです…。

中盤、突然カラスが佐知一家の過去を語り出したりして、ファンタジーな流れが
入り込みますが、違和感はなく、かえって彼女たちのドタバタを鎮めるための
抑制として効いているようです。こうしたファンタジックなシーンは、要所で
展開されます。

日常に巻き起こる、家の中の不備や、彼女たち個人に起こる問題など、見どころが
たくさんあって、混乱しそうなものですが、ファンタジックな要素と、穏やかな
日常の会話が交錯して、見事なバランスを構築し、迷うことなく最後まで楽しめ
ます。

一人でも生きていけるけれども、だれかに一緒にいてほしいことがある。
一人一人が自立していて、同居人に対して敬意を持っている。
自分も他人も尊重できる。相手の好意を素直に受け取れる。

この四人が一緒に暮らしていてとても楽しそうなのは、彼女たちがこのような
性質を持つ人たちだから。何もしなくて気が合うのであれば何よりだけれど、
自分が気持ち良く暮らしたいと思うのであれば、相手が気持ち良くなるように
心がけることが大事だなあと、素直に感じます。

血が繋がっていない彼らの距離感は絶妙であり、世の中の常識からかくまって
くれるシェルターのような心地よさがあります。彼らの関係とやりとりに
疲れた心がほぐれていくのを感じる物語です。

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