ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

それぞれが見つけた幸せと心に残る味

花だより みをつくし料理帖 特別巻』の

イラストブックレビューです。

編集

 

江戸時代の料理屋で、料理人として奮闘する女性、澪を描いた「みをつくし料理帖
シリーズの番外編。大坂に戻ったのち、文政五年(1885年)春から初午に
かけての物語。

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江戸を出て、故郷の大坂へと戻った澪。江戸の味である浅利の佃煮を持って
いってやろうと、老体にムチ打って、旅に出かける種市。
かつての澪の思い人、小野寺数馬とその妻、乙緒の夫婦の様子。
周囲の助けによって吉原から出て、故郷の淡路屋を再建した澪の親友、野江。
体調を崩して塞ぎ込む夫、源斉を元気づけようと、必死に考え、手を動かす澪。

みをつくし料理帖」シリーズから四年、大人気のシリーズが番外編として
帰ってきました。

登場人物たちのその後の様子が綴られた連作短編集です。

料理人、唐小間物を扱う店のこいさん武家の嫁、医師。
それぞれの立場で、日々を懸命に、そして丁寧に生きる人々の姿を描いた物語です。

澪に届けるため、浅蜊の佃煮を作る種市は、心の中で語ります。

佃煮はお菜の中では地味な脇役だが、少しあればご飯が進むし、作り置きが出来て
長く使えるのも好ましい。まるで俺みてぇだ、と満ち足りた思いで、鍋を覗く。

澪の姿に亡き娘の姿を重ね、共に過ごしてきた種市が、澪のことを思い、そして
佃煮の様子を自分と重ねながら料理をする姿にほっこりとします。

また、澪のかつての思い人、小野寺数馬は御前奉行。嫁の乙緒は無表情で、
何をどう感じているのか、見た目からはわかりません。
そんな乙緒が、かつて数馬が心を通わせた女性がいた、という話を聞き、
胸がざわざわとします。もちろん表情には出ません。

体調も良くなかった乙緒を心配した数馬に、「それでは岡太夫が食べたい」と
リクエストします。さて困ったのは数馬です。岡太夫とは何ぞや?どんな食べ物
なのか?

武家の嫁としてするべき事をし、家の状況を悟られぬよう、表情に出さない事。
そう子供の頃からしつけられてきた乙緒。しかし、妊娠のタイミングと相まって、
情緒不安定になった乙緒は、数馬の母との思い出の食べ物「岡太夫」を要求し、
夫とのつながりを、この家の嫁としての確かさを求めたのです。

妻のために、必死に調べ、自らの手で岡太夫を作りあげた数馬。
互いに口ベタであるがゆえに、伝えきれない、伝わらない部分もあるけれど、
二人で岡太夫を食べた思い出があれば、この先もやっていける。
二人の絆をより深めた食べ物となったのでした。

人を思いながら作られた料理は、心があたたまり元気が出るものです。
しかし、心が折れてしまいそうなほどの状況の時には、大切な人が作ってくれた料理でも
口にできないことがあるかもしれません。
そんな時には、子供の頃から食べていた、心の奥底に染み込んでいる食べ物が
その人の心を癒し、慰めてくれるのかもしれません。

幸せを運ぶ味。食べることの幸せ。
どちらが欠けても成り立たないものです。それを誰よりも理解している澪だからこそ
人の心に残る料理を提供し続けることができたのかもしれません。

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