『恋文の技術 』の
イラストブックレビューです。
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- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2011/04/06
- メディア: 文庫
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京都の大学院から石川の実験所へと飛ばされた大学院生、守田一郎。
先輩の谷口さんに叱り飛ばされながら、実験をひたすら繰り返す日々。
彩も娯楽もないその寂しさを払拭するべく、文通修行をする事を決め、
京都の仲間たちへ手紙を書きまくる。
まずは親友の小松崎君へ、4月から7月の3ヶ月間にかけて宛てた手紙。
小松崎君は好きな人ができたので、守田へ相談を持ちかけます。
守田のアドバイスに沿って実行してきた小松崎君にはさまざまなアクシデントが
起こります。甘いものを食べさせろ、というアドバイスに従って粽をあげたら
相手が腹を壊した、とか、花をあげろ、というアドバイスにカーネーションを
あげたら、相手はカーネーションのアレルギーだったとか。いやはや。
他にも、研究室の意地悪な女の先輩や、かつて家庭教師の生徒であった
小学四年生の男の子、大学の先輩でもある作家、妹などに宛てて、同時期に手紙を書きます。
同じ出来事を、それぞれ口調を変えたりしながら書かれた手紙の文面からは、
守口のふざけてしまうけれども案外いいとこあるヤツなんだぜ、という雰囲気が
伝わってきます。
そして、守口は思いを寄せる人への恋文を綴ろうと練習を重ねるのですが…。
これまた脱線につぐ脱線。笑いながら突っ込みまでしたくなるような文章が
後から後から出てきます。いやあ、おもしろいですね。
こうした一連の手紙を見てみると、手紙というものはいざ書こうと思うと
結構難しいものなのだなあと感じます。特に恋文ともなればなおさら。
自分を良く見せようとしたら怪しげになるし、逆に控えめにしようとしたら
なんの取り柄もない残念な気の毒な人になってしまったり、相手を褒めすぎたら
胡散臭くて気持ち悪い感じになったり。
それならば、素直に自分の感じたままを、相手に対して思いやりを持って
文章を綴れば、それは受け取る相手にとって、とても嬉しい手紙になるのでは
ないでしょうか。緩急交えた文面、ふざけてんだろとツッコミたくなるけれども
外し過ぎず、知的な言葉をちょこちょこと入れてくるそのバランスは、見事な
もので、最後まで楽しく読むことができます。
情けなくも憎めないへなちょこ野郎、守口の恋の行方を心配しつつ、
森見先生の恋文の奥義を、どこかで披露してもらいたいものだなあと思うのです。
なお、小説の手紙を自分が書く際の参考にされるかどうかは、読まれた方によるでしょう。
結びの言葉などは洒落ていて、知的な人だなあと思ってもらえるかもしれません。
自分は分からなかったのでググりましたが。
『匆々頓首』(そうそうとんしゅ)って知ってますか?