ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

知らないうちにたまっていくのはホコリと心の傷

あなたの人生、片づけます』の

イラストブックレビューです。

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「部屋を片付けられない人間は心に問題がある」という考えを持つ片付け屋、大庭十萬里。彼女は部屋を見て、依頼人を見て、綺麗な部屋へと戻していく。

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社内不倫に疲れたOL、妻に先立たれた老人、一部屋だけ片付いた部屋がある主婦。
どれも本人が片付けを希望するわけではなく、家族が心配して十萬里のもとへ
片付けの依頼を申し込みます。ですから、部屋の主たちはたいがい十萬里の訪問を
嫌がったり、不快な態度をあらわにしたりします。

十萬里は小柄でむっちりとした女性。そして、愛想を持ち合わせておらず、鋭い
目つきで部屋を見回し、そして部屋の主の問題点を洗い出していくのです。
単純に片付けの指導をするわけではなくて、片付けができなくなっている、
本人の心の問題を見つけ出し、自分自身でそこに気づくよう持っていきます。

妻と別れたら結婚しようと言われ続けて5年。社内不倫をしている春花は、その
言葉を信じ、彼との結婚を見据えてマンションを買いました。彼が好きそうな
家具や食器も買い揃えました。しかし、この頃は家に帰ると疲れ果て、片付ける
気力もありません。部屋は足の踏み場がなくなっています。春花の不在時に
マンションへ訪れた母親が心配して、十萬里に片付けを依頼しました。

訪れた十萬里は部屋を見て、いくつか春花に質問し、次回までにキッチンと
ベランダにあるゴミ袋を捨てておくように伝えます。重い腰をあげてゴミを全て
捨てた春花に少しずつ変化が訪れてきます。

たまったゴミを捨てて、少し心も軽くなった春花ですが、彼が別の若い
派遣社員と噂になったり、行きたくもない同期のホームパーティー
付き合わされたりと、日々のストレスはまだまだあります。

部屋が片付いてきた春花は、自分にとって必要なものは何なのか、という事を考える
余裕が出てきます。部屋の隙間は、自分の心のゆとりと比例しているものなのかも
しれません。春花は彼との付き合いに将来が見出せない事を、本当は心のどこかで
気がついていたのでしょう。

でも、目の前にものを積み上げていく事で、考える事を放棄していたのでは
ないでしょうか。部屋のゴミとともに、生きて行く上での煩わしい人間関係も
スッキリと片付けはじめた春花。彼女の部屋と将来は、気持ちの良い、明るい
ものになっていくはずです。

部屋というのは住む者、手入れしている者の心が反映されているのだという
ことがよくわかる物語です。しかも、毎日過ごしている場所だから、少しずつ
何かがたまっていっていることに本人も気がつかないのです。

部屋をきれいな状態に戻す、余計なものを捨てる、ということは頭の中をスッキリと
シンプルにさせ、手もとに残った本当に大事なもの、満ち足りた日々を送ることに
つながっていく。そんなことを教えてくれる短篇集です。

 

 

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