ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

物語から透けて見えるアメリカの自由と責任

大きなたまご 』の

イラストブックレビューです。

編集

 

アメリカのニューハンプシャー州フリーダムに住む12歳の少年、ネイサン・
トゥイッチェル。ふだんはネイトと呼ばれている彼が世話をしているめんどりが、
見たこともないような大きなたまごを産んだ。その卵から産まれた
生きものに、みんなが度肝を抜かれた!静かな街は一転して大騒ぎ。
この生きものを世話する覚悟を決めたネイトは、懸命に面倒を見るのだが。

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1950年代のアメリカの田舎町。のんびりとした、明るい暮らしぶりがよく
伝わってきます。町の人が読む新聞を発行している父親と、料理上手な母親、
そして生意気な妹と4人で暮らすネイト。家で飼っているめんどりを世話したり、
釣りに出かけたりと、ごく普通の穏やかな毎日です。

ある日、めんどりが大きなたまごを産み、このたまごがかえってから大変な
ことになります。地球上に2つとないこの生物に、大人たちはそれはさまざまな
反応を示します。博物館へ寄付しなさい、と科学者。客寄せにもってこいだから
売ってくれ、というガソリンスタンドのおじさん。広告に使いたい、という
ウイスキー会社の役員。

情緒のない大人たちに苦笑してしまいますが、ネイトはきっぱりと断ります。
僕はこいつを飼うと決めたんだ。その主張を、父親や科学者のチーマー先生が
認めてくれ、そして応援してくれます。

決めたからにはお世話もキッチリしなくてはなりません。この生きものは草食
ですが、とにかく食べる量が多い。たちまち街中の草を食べつくしてしまうような
勢いです。チーマー先生の助言もあり、ワシントンの博物館に移送して育てる
ことに。なんと、ネイトも1ヶ月ほどお世話担当として一緒に行けることに
なったのです。

とにかく12歳のネイトが生きものの飼い主として認められて、全権を委ねられて
いるところが自由の国アメリカらしくていいなあと思います。そのかわり、
お世話をするのも本人。生きものをどうするか決めるのも本人。
つまり責任を伴っているのです。

後半は、大きく育ちすぎてしまった生きものが、博物館ですら暮らすことが
できなくなり、頭でっかちな議員が絡んできて殺されてしまいそうなります。
テレビを使って、メッセージを発信し、なんとか生きものを救おうとする
ネイト。彼は、テレビの台本ではなく、自分自身のことばで、思いのたけを
スピーチします。

訳がわからず、こちらの思いがちっとも通じない大人の象徴として議員が
登場します。正論をこじつけて、自分の実績を上げようという思惑が見えますが
ここは日本もアメリカも変わりませんね。ネイトのスピーチを聞いて、多くの人が
動物園に移送された生きもののもとへ駆けつけ、寄付をしたり、プラカードを
持って声をあげたりする、素早く熱い行動はアメリカっぽいかもしれません。

12歳の少年が、大きなたまごからかえった生きものを巡る冒険です。
生きものへの愛情を学び、大人の世界を垣間見て、成長していく姿を描きます。
児童書ではありますが、アメリカの社会、自由と責任が透けて見える、大人も
楽しめる物語です。

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