ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

この弁護士、かなりクセが強いので取り扱いにはご注意を

やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』のイラストブックレビューです。

編集

 

いじめ、保護者とのトラブル、体罰など、学校で起こる様々な問題の
法的解決を目指して派遣される弁護士、スクールロイヤー。
新人弁護士の田口章太郎は、青葉第一中学校にスクールロイヤーとして
派遣された。「学校が嫌い」公言する田口は、法を武器に教師や生徒と
全力で向き合い、戦っていく。

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NHKで放送された同タイトルドラマのノベライズです。
弁護士の田口は、ある弁護士事務所の間借りをしている、通称「ノキベン」。
まだ法廷に立ったことがなく、早く実践を積みたいと、ウズウズしています。

そんな田口が派遣されたのは、青葉第一中学のスクールロイヤー、つまり
学校の問題を法的に解決する弁護士です。
この中学も様々な問題が発生しています。

最初にこの学校に訪れた時には、女生徒である水島真帆の母親が、担任の望月詩織に
体罰を加えられた、と言って抗議をしにきていました。
その文句はかれこれ2時間50分。そこへ颯爽と現れた田口は、母親に向かって
こう言います。

あなたが学校に来たのは午後1時。現在3時間が経過しました。その間、
こちらの先生は授業に出られず、生徒たちも学習権を奪われました。これは
刑法第234条、威力を用いて人の業務を妨害…威力業務妨害に当たります。
(中略)
3年位以下の懲役、または50万円以下の罰金です…

とバッサリ。
まあ、当然この母親は怒りながらも何とか帰っていくわけですが、これは
面白いですね。学校に対しては文句を言ってもいい、いつまでも保護者の
意見を聞くべきだ、子供の面倒は教師がきちんと見るべきだ、という
お前はジャイアンか、というこの母親の傍若無人ぶりがよくわかります。
いわゆるモンスターペアレンツってやつですね。

学校も、親に対して意見や文句を言うことはありません。
ただ黙って親の話を聞き、当事者である教師詩織に謝罪させ、終了です。
ちなみに体罰を加えたと言う詩織は、勤続3年目の若い教師で、授業中に騒いでいた
女性生徒手をつかんで、強引に椅子に座らせたとのこと。

…こんなことで体罰だなんだと騒がれ、担任を変えろとまで言われ、
3時間も拘束され、謝罪させられ。
その分の仕事も滞るわけですから、訴えたくなるのは教師の方だろ!とも
言いたくなります。…が、学校はそうしません。

とにかく事を大きくしたくない校長は、詩織に生徒の家に行って謝罪して
来なさい、と丸投げ。ベテラン教師の学年主任は、田口に対してもっと丸く
収める方法があるでしょう、と皆今ひとつ反応が悪い。表情も暗くなってい
く詩織に田口は質問します。

「望月先生は、どういう教師になりたかったんですか?」

そこから詩織も変わっていきます。生徒を理解したい。
逃げずに向かっていきたい。
そう決意した詩織に、田口はあるアドバイスをします。
そしてその通り実行した詩織に起こったことは…。

学校は学校のやり方がある。弁護士は弁護士のやり方がある。
中学時代にいじめを経験し、不登校だった過去を持つ田口だからこそ
感じることができる弱者の痛みがあります。そして、学校の外側にいるからこそ
見える、おかしな思い込みや常識。

歯にもの着せぬ物言いの田口は、世渡り上手とはとても言えません。
しかし、その言葉には嘘はなく、学校の犠牲になっている者を守る、という
強い気持ちが透けて見えるのです。それは、慣例主義にのっとって、消極的な
対応ばかりしている学校や、親や生徒の気持ちを変えていきます。

おかしな事をおかしいままにしておくと、どんどんおかしくなってしまう。
と、とにかく突き進んでいく田口ですが、悪辣な労働条件にも関わらず、黙々と
生徒のために仕事をしていく教師たちと、彼らの考えに理解を示す部分も
出てきます。田口も、様々な問題から成長していくのです。

これまでブラックボックス状態だった学校。そこが牢獄になるのか、楽園と
なるのか。それは教師、生徒、親たちがそれぞれ当事者意識を持って考え、
行動していくしかありません。
そこに問題が発生することは、避けては通れない道でしょう。
関係者の負担を減らし、第三者の立場で最適な結果導き出す。
スクールロイヤーという制度は、学校の暗くて日の当たらない部分に光をあてる
役割を持っている、といえるのかもしれません。

これからの学校の在り方に一石を投じる「スクールロイヤー」の物語。
学生はもちろん、子供を持つ親にも読んでもらいたい一冊です。

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