ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

自分自身から逃れられない悲しみを叫ぶ

生きてるだけで、愛。 』のイラストブックレビューです。

編集

 

25歳の寧子は、津奈木の家に押しかけて同棲し、3年になる。
鬱からくる過眠の症状から引きこもりがちになり、バイトも続かない。
その寧子のもとへ、津奈木元カノだという女が現れ、寧子を攻めたてる。
働いて自立しろ、と迫り2人で入ったイタリアンの店でバイトしろという。
何とかバイトをはじめてみる寧子だったが。

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昔から気分にムラがあり、たまに奇行に走る寧子は、高校の頃に
全身の毛を剃ってみたことがある。髪の毛、眉毛、脇毛、陰毛。
うら若き女性が毛なしのツルツルというのはなんというか、怖くもある。
剃った理由も、学校生活が何となくかったるい、とゆるめです。

寧子という人物はかなりエキセントリックな考えや行動持つ人間なのだ
ということがわかります。が、読み進めて行くうちに鬱病であることが
判明します。症状のひとつでもあるらしいのですが、眠くてたまらないので
ずっと寝ています。起きてはテレビを見たり、同じ症状を抱える人たちが集まる
ネットの掲示板にコメントを書き込んだりして、また眠る。

このように不安定な状況の時にはバイトもできず、彼氏の津奈木に頼る状況です。
しかし寧子は、思い通りに動かない自分の心や体にイラつき、津奈木に当たり
散らしています。そんな寧子に対してキレるでもなく、寄り添うでもなく、一定の
調子で津奈木は応えています。

ほぼ一日中ゴロゴロしていた寧子のとへ、津奈木の元カノだという女が
やってきて、津奈木と別れるように寧子に迫ります。散々毒を吐かれ、
まずは自立して家を出ろ、とバイトまで手配されてしまいます。

反撃する気力もなくバイトをはじめた寧子。お店のオーナーやスタッフは
とてもいい人たちで、寧子の鬱を治してあげよう!とまで言ってくれます。
寧子は時折混乱しながらも、もしかしたらこの仕事を続けられるのかも
しれない、と思い始めました。

しかし、またも奇行に走ってしまうのです。
それは、「理解してもらえない」という寧子の心の叫びだったのです。
家に戻った寧子は津奈木を呼び出します。

そして津奈木に向かって言うのです。

「あんたが別れたかったら別れてもいいけど、あたしはさ、あたしとは別れられないんだよね、一生。
(中略)あきらめなきゃ駄目なんだよね?いいなあ津奈木。あたしと別れられて、いいなあ」

寧子が自分にどれだけ絶望しているか。ほかの人間になれない悲しさ。
心も、体もコントロールが効かない。それでもずっと子の自分で生きて行かなくちゃ
いけない。そんな寧子の気持ちが叫びとなって溢れてきます。
こちらまでその悲しみに心を絞られるようです。

あやふやなように感じていた津奈木と寧子の関係ですが、津奈木は津奈木なりに
寧子を見守ってきたことがわかります。生きているだけで、そこに愛があったのです。
言葉のやりとりや態ではわからない愛情、そして自分に対する絶望。
満たされきれない思いに満ちているのですが、それでも生きている、
生きていくのだ、ということを感じさせてくれる物語です。

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