ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

埼玉出身なんですけど、これって私の事でしょうか?

ここは退屈迎えに来て 』の

イラストブックレビューです。

 

都会からUターンした30歳、結婚相談所に駆け込む親友同士、
売れ残りの男子としぶしぶ寝る23歳、処女喪失に奔走する
女子高生。ありふれた土地で、ありふれた日常を送り続ける
8人の女の物語。

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道の両サイドに並ぶブックオフ東京靴流通センター洋服の青山
ユニクロしまむら西松屋スタジオアリス、ゲオ、ダイソー
ニトリ、コジマ、ガスト、ドン・キホーテマクドナルド、
パチンコ屋、アピタ、イオン。こういう景色を「ファスト風土」と
呼ぶのだそうです。自分の出身地である埼玉県も、そこかしこが
こんな風景です。田んぼもありますけどね。

この、どこにいっても見られるありふれた景色の中で、これまたありふれた
日常を送る8人の女たちを描いた物語です。
この物語はキーマンとなる男性、椎名が、なんらかの形で女性たちに
関わっています。

かっこよかった高校時代の、憧れの男の子として。
やがて夫となる彼氏として。
初恋の相手。恋人未満の優しい友人。
初体験をやり損ねた相手。兄。

登場人物たちから見た桐生は、ざっとこれだけの対象であるのです。
地元で人気のある、男からも女からもモテモテだった桐生。
彼は、いろんな時代に、いろんな人間と関わって今の桐生が
出来上がっている、という印象です。

そして、主人公たちが抱く思いは、代わり映えのない景色と毎日に
焦りや諦めを感じています。自分は子供の頃から地元に関して愛着は
なく、必ず違う場所で生きていく、と思っていました。地元で結婚して
自分の居場所を築いていく友人たちのことが理解できないなあ、と
若い頃は思っていたのです。

それはきっと、生まれ育った場所で定着された自分のイメージや、思い込みを全て
取っ払って、新しい環境や新しい自分に巡り合いたかったのかもしれません。
ま、どこで暮らそうが、自分がすっかり変わるわけでないのですが。
と、いうことにまだ気づかない世代の女性たちのお話なので、昔の
自分や友人たちとのやりとりを思い出して、なんだかしみじみとして
しまいました。あるある!こんなこと思ってたよ〜!って。

それと、子供の頃、人気者や憧れの存在だった人が、大人になって
出会ってみると、あれ?って感じることはありませんか。
逆に、高校までは地味だったのに、キラキラと輝いて自信に満ちた
大人になっていたり。

人間の優劣は、見た目や勉強、スポーツの出来、コミュ力が全てだった
学生時代。その頃のヒーローやヒロインは、自分が逆立ちしてもなれないもので、
だからこそ強烈に憧れるわけです。そんな彼らが年をとって、地元に戻り、
そこで生きていくことを決意する。彼らにとっては、その輝きがマイルドに
なったからこそ、逆に生きやすくなった部分もあるのかもしれません。

強い刺激はないかもしれないけれど、代わり映えのない日常を受け入れる
うちに、そこが自分のいる場所だと気づいたりする。
地元で暮らす、ということはそんなことなのかもしれないなあと感じます。
この、どこにでもあるような土地に住むというどこか卑屈な感情を抱く状況を
詳細に、そしてちょっぴりユーモアも交えて丁寧に描く物語です。

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