ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

絶望の淵で折れた羽を広げる蝶たち

アンチェルの蝶』の

イラストブックレビューです。

 

大阪で小さな居酒屋を経営する藤太のもとへ、かつての同級生、秋雄が
少女ほづみを連れて訪れた。ほづみを託された藤太は、戸惑いながらも
少女と心を通わせていく。ほづみがやってきたことをきっかけに、
25年前の陰惨な記憶、そして哀しい真実が明らかになっていく。

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親から継いだ小さな居酒屋を経営する藤太は、アル中寸前の無口で
愛想のない男。そこへ、中学時代の同級生で弁護士をしている秋雄が、
少女を連れて、藤太の店へやってきます。少女は、藤太の初恋の相手、
いづみの娘で10歳。
秋雄は強引にほづみを託し、店から出ていってしまいます。

翌日、秋雄の住むマンションで火災が発生。秋雄は行方不明との
ニュースが入ります。そんな状況から藤太とほづみの生活はスタート
したのです。

ガラの悪い酔っ払いを相手に、愛想のない商売を続けていた藤太には
少女の世話など想像もつきません。自分の不甲斐なさからほづみを
傷つけるような発言をしてしまったり、ギクシャクとした態度を
取っていた藤太。しかし、いづみを思い出させるほづみの明るさ、
前を向こうと頑張る姿に、自然とほづみの力になろうと気持ちが
変化していきます。

2人の生活が軌道に乗ってきた頃、ほづみの本当の父親だと名乗る
人物が現れます。そこから、知らなかった中学から高校にかけての
いづみの様子が明らかになっていきます。

藤太、秋雄、いづみの3人で過ごした小学高学年から中学時代の頃、
彼らはそれぞれに辛い思いをしていました。藤太は、アル中で
ギャンブル好きな父親から暴力を受けていました。
ほかの2人も、父親によって大事なものを傷つけられていました。
彼らが絶望の淵から、脱出しようとして取った行動とは。
そして、そのことで救われたのでしょうか。

ロクでもない親の元に生まれて、ギリギリのところで踏ん張ってきた彼ら。
彼らの親は、火災により命を落としますが、その後の彼らの人生は
どのようなものだったのでしょう。

辛い状況の中でも、一筋の光を放っていたいづみの存在。
その後、彼女がどのような人生を送ってきたのか、どのような思いを
持って生きてきたのかを思うと、とても苦しくなります。

子供は親を選べません。時に、親は子どもに「不幸」という烙印を押します。
自分が生まれてきたのは何のためなのか、生きていることに意味があるのか。
そんな十字架を背負いながら生き続ける彼らが見つけた、一筋の光。
細く、頼りないその一筋目指して、暗い淵から上がろうと、折れた羽を
広げ懸命に羽ばたこうとする彼らの姿に、生きて欲しい、と願わずには
いられないのです。

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