『眠りの牢獄 』の
イラストブックレビューです。
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- 作者: 浦賀和宏
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/02/15
- メディア: 文庫
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小説家である浦賀の恋人、亜矢子は五年前に浦賀とともに
地下室に向かう狭い階段から転がり落ちた。
浦賀はすぐに意識が戻ったが、亜矢子はそれ以来意識不明の昏睡状態と
なっている。浦賀は友人の北澤、吉野とともに亜矢子の兄に呼び出され、
三人は地下室へ閉じ込められてしまう。解放の条件は、亜矢子を突き落とした
犯人を証明する事だった。その一方で、進められる代理殺人の本当の目的とは。
地下室に閉じ込められた三人と、メールだけのやり取りで交換殺人の
打ち合わせをする二人。一見、何の関係も持たないような二つの出来事が
最後の驚愕の結末へと繋がっています。
登場人物たちは、いずれも誰かが誰かに対して強い愛情を抱いています。
それは、両思いであったり、一方通行であったりとさまざまな状態です。
彼らの愛情の矛先も、この物語を読み解く重要なポイントとなります。
地下室に閉じ込められた三人が、日にちが経つにつれ、食料がなくなり、
水が途切れ、異様な状況の中で次第に追い詰められていきます。
そこで起こった陰惨な出来事は、正気でいられるギリギリのラインで
あったのでないでしょうか。
一方、メールだけのやり取りから心を通わせ、交換殺人を実行するに
至った二人。一方はなるほどと思うような動機を持っていますが、もう一人は
自己中心的かつ深く考えないタイプの人間で、あまり同情できません。
こちらの同情できないタイプの人間が殺した相手が…えっ!?
となります。読者からするとどうして?意外すぎる!!という人物です。
交換殺人の計画も、少しずつ「あの人物を狙っているのか」と思わせる
伏線が出てきます。同情できないタイプの人間たちが毒を振りまく行動に
気を取られているうちに、交換殺人を実行した人物は捕まり、地下室に
閉じ込められていた者たちは何とか救出されます。
亜矢子を階段から突き落とした人物も、明らかになったように思われ、
何となく解決したのか…といった状況の中で衝撃のラストが訪れます。
構成の緻密さ、計算し尽くされた伏線のタイミングと分量。
そして全体に漂う歪んだ愛情、憎しみ、悲愴感。
読者の感情までもコントロールされてしまうような、圧倒的な
「すごいミステリ」です。