ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

流される女が大金を手に入れるとどうなるのか

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身の上話 』の

イラストブックレビューです。

 

仕事をすっぽかし、職場の制服姿のまま、財布ひとつで不倫相手と
東京にやってきたミチル。そのまま東京で暮らすことになるが、
地元を出るときに買った宝くじが高額当選していることが判明。
流されていくままに生きていく女、ミチルが出会う災厄と恐怖とは。

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書店に勤めるミチルは、歯医者に行くと言って店を中抜けし、不倫相手が
東京に帰るのを見送りに、空港へ向かいます。空港でほかの店員に
頼まれていた宝くじを購入し、衝動的に不倫相手と同じ飛行機の
切符を取り、そのまま二人で東京に行ってしまいます。

このミチルという女性は、だらしないというか、幼いというか。
物語の始まりの時点で二十三歳なのですが、仕事の途中で、後先考えずに
不倫相手と一緒に東京へいってしまうという行動が突飛すぎます。
この後も職場に電話を入れるとか、お詫びするとか、そうした行動も
きちんとできず、職場の同僚経由で伝えてもらう、という有様。

さて、こんなふわふわした若い女性が2億円を手に入れたらどうなるか。
彼女の周りには、東京に勝手についてきてしまった彼女を咎めたり
説得したり守ったりしようとしない不倫相手の豊増、幼なじみで
東京の部屋に泊まらせてくれている竹井、その彼女の高倉さんなどがいます。

誰もが何を考えているのかわからない部分を持っています。
それはミチルが2億円を手にして、誰も信じられない状態になっているせい
かもしれません。大金を手にして、隠しているつもりがバレバレな様子の
ミチルに、この人物たちは特に彼女から何かを奪おうとか、そうした行動は
見られません。むしろ守ろうとしてくれている?でも何のために?

と思っていたところに事件は起こります。
ミチルが直接手を下したわけではありませんが、目の前で起こっていることを
止める事もできず、かといって後から然るべき場所へと出向く事もせず。
追い詰められたミチルがどうしたかといえば、やはり逃げるわけです。

逃げた先で、ようやく心落ち着く場所を手に入れることができたかと
思いきや。ここで、語り手の衝撃の事実が判明します。最後の最後まで
油断できません。

大金は妙な引力があるようです。芯を持たない、空っぽな人間が手に
すれば、その空いた空間を埋めるべく、おかしな人間が引き寄せられて
くるのではないでしょうか。やさしいだけの中身のない男、独占欲の
強い男、守りたい方向がどこか間違っている男、そして安らぎが
欲しかった男。

ミチルは彼らに何かを与えることができたのでしょうか。彼らはミチルから
何を得たかったのでしょうか。表面だけを掬って中身が見えて来ない、
虚しい付き合いのようにも見えなます。ただ、中身が見えなくてもいいから
穏やかな幸せが欲しい、と望んだ男が最もミチルを幸せにし、同時に不幸に
することに皮肉を感じます。

流されるだけの人間には、大きなものものを持つべきではない、という
ことを感じた物語です。

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