『女は帯も謎もとく 連作ミステリー 』の
イラストブックレビューです。
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- 作者: 小泉喜美子
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2018/04/12
- メディア: 文庫
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築地生まれの築地育ち。粋な新橋芸者の「まり勇」は、ハードボイルドなどの
海外ミステリが大好き。忙しいお座敷の合間に起こる事件に推理を働かせる。
築地を舞台にした都会派連作ミステリ。
この頃昭和時代の作品の新装版を読む機会が増えたような気がします。
ちくま文庫が、獅子文六や三島由紀夫の作品を出したのが影響しているのかも。
何となく手に取った文庫本が昭和に出版されたもので「新装版」だったり
すると、「わあ♪」となります。長らく評価されてきて、またお召し替えをして
新たに書店に並んでいる訳ですものね。それってすごい事だなあとワクワクします。
本書もそうした一冊。1982年にトクマノベルズから初刊発刊。
あら?文庫の新刊と思って購入したんだけどな?と帯をよーく見たら、
初の文庫化!だそうです。実に書籍発刊から55年経っての文庫化です。
自分が小学生頃に書かれた話なんだ!とこれまたワクワクしてしまいました。
主人公は築地生まれの築地育ち。粋で艶やかな新橋芸者の「まり勇」。
海外ミステリ好きの彼女が、周囲で起こった事件に推理を働かせます。
チャキチャキの江戸っ子を思わせる、歯切れの良いサッパリとした
口調、少しせっかちでおっちょこちょいなところもあって、憎めない
キャラクターです。
得意客の運転手不審死は、自殺か他殺か。
踊りのお師匠さんが毒殺された現場で握っていたオレンジの意味とは。
海外旅行先で見つけた、有名俳優の兄弟の正体は。
ミステリ小説で得た知識をこねくり回しながら、頭の中で推理を
働かせます。事情を聞きに来る刑事さんのこともちょっぴり気になる
ご様子。そんな淡い気持ちも持ちながら、でもモジモジしないで
カラッとしているのがまり勇にいいところです。
連作短編集ということで、事件の内容も大小ありますし、まり勇の
推理が毎回当たる、というわけでもありません。しかし、物語全体に
漂う、築地という街と、新橋芸者の世界、彼らの発するエネルギーが
こちらの気持ちを高揚させてくれるのです。決して軽くはなく、
パワーに満ちた明るい世界です。
好奇心に満ちた芸者が、事件の謎を解く。テレビの2時間ドラマにありそうな
設定ですが、現実にはこの小説のような、女の層を重ねて生きている
深さや、そこに感じる影を明るさで見えなくするような、そんな演技を
できる女優さんはなかなかいないんじゃないかなあと思います。
ミステリといえども、しっかりとした女性の味わいが楽しめる
短編集です。
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