ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

決して融合することのない世界が人の心もたらすものとは

プラネタリウムの外側 』の

イラストブックレビューです。

 

佐伯依理奈は元恋人で現友人の川原圭のことを気にかけていた。
そして、圭は2ヶ月前に、ホームに落ちた人を助け、自分は電車に
轢かれて死んでしまった。自殺なのか、それとも本当に人助けの
結果の事故なのか。依理奈は有機素子コンピューターで会話
プログラムを開発する南雲助教授のもとを訪れ、亡くなる直前の
圭との会話を再現するのだが。

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亡くなった人間の会話パターンをプログラムに設定し、チャットで
会話をします。リストバンド型のウェアラブル・コンピュータを
装着している時だけログインでき、そのデバイスから送信される
脈拍等の心理データを解析します。つまりプログラムは、話し相手の
感情を判断しながら会話を行うのです。

南雲はこのプログラムを共同開発していた同僚で、亡くなった友人を
プログラムに設定し、「ナチュラル」と名前をつけて、会話をしています。
そこにこのプログラムを使いたい、という学生、依理奈が研究室を訪れます。
依理奈は2ヶ月前に亡くなった友人、圭と亡くなる直前の会話をしたいと
言うのです。

会話をすることで、圭が死なずに済んだのではないか。
そんな風に自責の念に囚われた依理奈は、何度も圭との会話を試みます。
あくまでプログラムと会話をしているのですが、次第に冷静さを失って
いきます。友人を亡くしている南雲も、自分が友人の死で感じた喪失感から、
そんな依理奈の様子を心配しています。

会話プログラムの様子について詳細に描かれていて、「ナチュラル」に
ついては破綻することなく会話を進めることができます。まずは、
そのようにコンピュータが学習して成長していることに、なんだか
背筋が寒くなるものを感じます。

徹底的に描かれる理工学描写と、予想と少しずつずれるプログラムの
動き。その違和感が、モヤモヤと心の奥に黒い影を落とします。
コンピューターとの会話は、箱の中に存在する、実際には存在しない
人物とのやりとりです。それは亡くなった本人のデータであって、本人では
ない。そこに気が付いても認めたくなかった依理奈には、圭との会話は
望んでいても辛いものであったに違いありません。しかし、箱の中の世界と
融合できないことをハッキリと悟った時に、今いる自分の世界目を向ける
ことができたのでしょう。

そこに存在すること、人の気持ち。目に見えるものと見えないものを
繊細な筆致で美しく描いた物語です。

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