ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

この衝撃的な世界が絶対にないと言い切れるか

殺人出産  』の

イラストブックレビューです。

 

「産み人」となり、10人産めば1人殺すことができる。
そんな「殺人出産制度」が認められた世界では、「産み人」は
尊い存在として崇められていた。人々の素晴らしい行為をたたえながらも
複雑な思いを抱く育子の秘密とは。

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「産み人」の申請をし、10人を無事に出産すれば、合法的に1人の人間を
殺す事ができる「殺人出産制度」。人口が減少し、子供を作るための
セックスをしなくなった世界を救済するためのシステムとして実施。
「産み人」によって産まれた子供はセンターで育てられ、子供を欲しがる
大人のもとへと引き取られていきます。男性も、人口子宮を取り付けて
「産み人」となることができるのです。

世の中の世論としては、命を作り出す「産み人」は素晴らしい存在です。
また殺される人物も「死に人」と呼ばれ、産み人の原動力となってくれた
人物として好意的に受け入れられます。

こうした制度や世論に複雑な感情を抱く育子。彼女の姉は「産み人」
なのです。穏やかな美しい姉が、殺したいと思う人物は誰なのか。
自分か、母か。育子がそんな風に考えているうちに姉が10人目の
出産を終えた、という連絡が入ります。

殺人出産制度という仕組み通して、いろんな世界観が伝わってきます。
恋人や夫婦の付き合い方、セックス、妊娠、出産。
正当な殺人。命の価値。自殺。

人ひとりの命の輪郭が、なんだかあいまいでボヤけているように感じます。
そしていつ突然にやってくるのかわからない「死亡予定通知」。
どんなに懸命に生きていても、誰かから「10人産んだからあなたを殺すね」
と言われたら、殺されるしかないのです。

こんな異様な世界は物語だから、と一言ではかたづけられないものが
あります。世の中の常識は、どんどん変わってきています。
今ある常識は、10年先まで変わらないとは限らないのです。

人口減少による世の中の情勢や、死に関わる問題など、奇抜な発想ではありますが
いや待てよ、あるかもしれない、と思わせてくれるリアルさが随所に
散りばめられています。そして、その時代のメインな常識にそぐわない
人々がいるということが、物語の説得力を強くする理由であるのかもしれません。

数十年先の世界を少し覗き見してしまった。それは悪くはないけれど、
いいものでもなかった。そんな後ろめたさを感じます。
少し背筋が寒くなるような、それでいて最後まで強く惹きつけられて
目が離せない物語です。

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