ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

ぐうたらで酒好き。でも人を癒す腕はピカイチ。

読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!

https://shimirubon.jp/columns/1691046 

 

癒し屋キリコの約束』の

イラストブックレビューです。

 

純喫茶「昭和堂」の店主、霧子はぐうたらで酒好き。
しかし裏稼業の「癒し屋」では、依頼人のどんな悩みも解決してしまう
凄腕の持ち主。そんな霧子が持つ、悲しい過去とは。

 

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レトロな喫茶店雇われ店長として働く28歳の女性、カッキー。
茶店の店主、霧子。この2人がいるのが純喫茶「昭和堂」。
この店には店主を始め、常連客も個性の強い面々が集まります。

まずは店主、霧子。40歳そこそこで、色気のある美人であり、コーヒーを
淹れるのが下手。店主としてあるまじき能力の持ち主。
なので、コーヒーを淹れるのが上手なカッキーに任せて、自分は
ロッキングチェアを揺らし、昼間からビール飲んでダラダラと
過ごしているのです。

霧子の裏稼業は「癒し屋」。 表だって宣伝などはしていません。
ですから料金も受け取らないのです…。ってボランティア精神すごいな
と思いきや、店には賽銭箱があり、お客はそこへ「解決した感謝の気持ち」を
入れるというシステム。霧子は、金回りの良さそうな依頼人を見つけると
目をギラリと光らせて、ものすごい話術で追い込みお金を投入させます。

依頼人の心を癒すという、その手法も強烈。
姑との関係が悪化してどうにもならない状況になってしまったご婦人からの
依頼には、姑とご婦人、互いに気に入らない点を10個づつ挙げて発表し合い、
先に泣いた方が負け、というもの。読んでいる方もうわあこりゃたまらん、と
冷や汗が出てくるようなすごい悪口の応酬です。

しかし、相手の欠点をあげ尽くした後、今度は相手の良いところを
10個挙げるルールに変更します。挙げられない場合も負け。
小さな出来事から、相手の良いところを考えるうちに、2人の様子に変化が
訪れます。こんな風に私たちを見てくれていた、相手のことをありがたいと
思っていたのに、それを忘れていた…。

ショックの大きな療法ではありますが、大きな成果を得ています。
そんな霧子はカウンセラーの資格を持っているとのこと。実は
その知識を用いて、依頼人の悩みを解決し、「癒し」を与えることが
できるようです。んでもやはりハチャメチャだから、ハラハラしますが、
だからこそ解決後の良かったねと思う共感度がものすごく高まるのかも。

そんな霧子が過去に抱えるのは、カウンセラー時代起こった出来事。
そのことが原因で、何度も脅迫を受けることになります。
本人は全く意に介さないのですが、カッキーを始め常連の皆が
霧子を守るべく、動き出します。

強烈な個性の裏に隠れた悲しみの気持ち。
そのベースがあるからこそ、依頼人の悩みや苦しみに光を差し込み、
自身で立ち向かう力を持たせることができるのでしょう。
癒し屋自身のそうした気持ちは、いったい誰が癒してくれるのでしょうか。

賑やかで個性的な常連客たちの、一歩引いた距離から見守ってくれる
やさしさを感じながら、癒し屋自身も顔を上げて生きていく力を
身につけていきます。やわらかなやさしさが大きく広がり、読む者の心まで
包み込んでくれる、あたたかい物語です。