ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

多彩な芸術家の根底に流れる美と食

 

魯山人味道  』の

イラストブックレビューです。

 

書を良くし、画を描き、印を彫り、美味を探り、古美術を愛し、
後半生にはやきものに寧日なかった多芸多才の芸術家、魯山人
終生変わらず追い求めたのは美食であった。折りに触れ、筆を執り、
語り遺した唯一の味道の本。

 

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昭和五年から死去する昭和三十四年までの、様々な雑誌に掲載された食に関する
随想や対談をまとめたもの。
昭和五年からから十年ごろに多く取り上げられているのは、その土地の
素晴らしく美味な食材とその食し方。加州金沢の生のくちこ、京都の豆腐、
若狭春鯖のなれずし、すずきの洗いづくりなどのほか、鮎にいたっては若鮎、採れる
場所と大きさ、はらわた、食い方など、鮎だけで4テーマ書いています。
どんだけ鮎好きなの!?

どうやら鮎という魚は、魯山人にとって味もさることながら、形やその色が
とても美しいため、お気に入りの食材であったようです。その採りかた、
調理いかんによってたちまち台無しにもなってしまうその繊細で、
一筋縄でいかないところも、彼を夢中にさせる一因となったのかもしれません。

昭和初期の頃、新幹線も飛行機もない、インターネットももちろんないという
この時代に、実に様々な食材を口にし、さらに分析していることに驚きです。
それも、『あなたの味覚だからそう感じるのでしょう』といった、理解できない
主張ではなく、根底にあるのは非常にシンプル。

食材はもっとも自然に近い状態がよい。その食材をよく味わうにはなるべく
シンプルな味つけにするのが最適。そして、その料理最大限に美しく見せるべく
器にはこだわること。

ただそれだけなのです。
あちこちの美味しいものを最善の形で食す美食。美しく仕上がった料理を、
それに見合った額縁=皿に収めて、その姿を愛でる美食。
この姿勢にとことんこだわった魯山人は、やがて料理屋で食事をしても
満たされない、というジレンマに陥ります。

なんでもあれこれ余計な調味料をかけ、やたらと甘くする。煮過ぎ、焼き過ぎ。
食材の目利きであり、調理もできる魯山人だからこそ、素材をいかさない、
お客の事を考えていない店の料理に納得がいかなかったのでしょう。
このような傾向はもちろん現代にも言えますし、客である自分たちの方でも
素材が活きていないこと、味の違和感に対して鈍感になっているとも言えます。
こうした料理人と食べる人間の味覚の鈍さに、この時代にすでに危機感をもっていた
魯山人に驚きです。

料理とはなんだろう。素材を調理して食べることの意味は。
食べて生きる、とはどういうことか。
その道を追及し、ひたすらに進んだ魯山人は、修行僧のように厳かな空気を
放っています。
食に対して真摯に向き合おう、そんな気持ちになる一冊です。

 

読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!

https://shimirubon.jp/columns/1691046