ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

がん治療の世界で巻き起こる驚愕のミステリ

読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!

https://shimirubon.jp/columns/1691046 

 

がん消滅の罠 完全寛解の謎 』の

イラストブックレビューです。

 

呼吸器内科の夏目医師は、生命保険会社に勤める友人からある指摘を
受ける。夏目が余命半年を宣告した患者が、保険金を受け取った後に、
病巣が消え去ったという。同じように保険金受領後の寛解ケースが数件
起こり、夏目は調査に乗り出す。

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診察や、患者が入れ替わるようなトリックもありません。それなのに、余命半年という重篤な患者のガンが消えていきます。それも数件が続けて起こるのです。
奇妙な事件に乗り出すのは、呼吸器内科の夏目医師。真面目を体現したような人物なので、不正を起こすようなことはあり得ません。


同じく、この件に興味を持って共に調査に乗り出したのが、夏目の大学時代からの友人であり、疫学研究の医師でもある羽島と、今回の奇妙な関連に気づいた、同じく彼らと大学時代からの友人であり、患者に保険金を支払った保険会社に勤める森川。

がん保険の「リビングニーズ特約」は、余命半年の宣告を受けると、保険金の一部又は全部が生存中に支払われるしくみです。保険金を受け取った患者たちは、一人親の家庭であったりと決して豊かとは言えない家庭環境にあります。そこで森川は不正を疑ったのです。寛解した家庭を、お祝いと称して訪問してみても、計画的に保険金を受け取った人物のようにはとても見えないのです。

その一方で、議員やヤクザの親分など、ごく初期の段階でガンが発見され、適切な治療を行えば完治する可能性が高いにもかかわらず、数ヶ月後には転移してしまうといったケースも。ガンがなくなり保険金を受け取った者、治るはずのガンが転移してしまった者の裏には何かがあるに違いないのですが、そこに大きな壁が立ちはだかります。

そう、「ガンはコントロール可能なのか?」という疑問です。
発生したがん細胞を無くすことができるのか?また、ごく初期の段階であったがん細胞を転移させることができるのか?ミステリというよりは、もはや医療サスペンスです。

がん細胞を意図的に操ることがどれだけ難しいか、がんについて詳細に説明してくれます。それを踏まえた上での結末にはただも驚くばかり。自分には医療知識がないので不可能だと感じる部分が見当たらず、それって本当に可能なの!?可能だとしたら超ヤバくない!?と、年甲斐もなく声を高らかに叫んでしまいました。
これじゃまるで医師は神だよ!!そうなんです。そう思ってしまうくらい怖いです。
説得力もありますしね。

医療的な結末に加えて、登場人物たちが迎えるラストがこれまたすごい。
完全に裏をかかれたというか、そうなっちゃうの!?と再び叫んでしまうという。

日進月歩な医療世界。ガンといえば完治が難しい、怖い病気であるという認識がまだまだ強いと思います。そうした中で、本書は現代におけるガン研究や治療、診察の様子などをわかりやすく伝えてくれるといった一面もあります。
そして、何かを成すために優秀な頭脳を持った医師が、その使う方向を少し変えるだけで、人の生命をもコントロールできてしまうという恐ろしい事実を知るのです。物語の中のだけの話であってほしいですね。がん細胞と人間の生き方をリンクさせた、衝撃的で、そして最後まで一気に読んでしまう物語です。