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『奴隷小説 』の
イラストブックレビューです。
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- 作者: 桐野夏生
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2017/12/05
- メディア: 文庫
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長老との結婚を拒んで舌を抜かれた女。武装集団によって
拉致された女子高生たち。夢の奴隷となったアイドル志望の少女。
人間社会に現出する抑圧と奴隷状態を描く短編集。
現実ではない、ファンタジーな世界観あり、どこか遠くの外国で
実際に起こったテロ事件を連想させる設定あり、過去や現代の
日本であったであろう設定があり。様々な状況の中で奴隷たちが登場します。
武装集団によって拉致された女子高生たちは、壊れかけた建物に
閉じ込められています。周囲は水で囲まれ、船で出入りするしかありません。
逃げようとすれば直ちに射殺される状況の中で、まず名前を失い、
番号で呼ばれます。そして、彼女らは自分たちの先行きを考えて絶望します。
粗末な食べ物を与えられ、彼女らを襲った人間たちがやってくると、
ここから出られるのかもしれないという僅かな希望と、出たところで
新しい絶望が待ち受けているだけだという思いで、だんだんと思考が
停止していきます。人格を無視され、満ち足りた生活を奪われ、生きている
事が精一杯という状況になると、自分には何かができる、今の苦境から
脱出するのだ、という思考にならないのです。
様々なシチュエーションのお話が登場しますが、どれも状況に縛られ、その場所から
動けない、動こうとしない登場人物達の姿があります。与えられた世界しか
知らず、また知ろうとしないために、訪れるのは閉じた未来。
愚かとも言えるその姿から感じるのは、現代社会においても、多くの人が
何らかの縛りを受けており、絶望や諦めを感じながらもそこから脱しようと
しない、つまり奴隷的なものを持っていると言う事です。
完全にあらゆる事から自由になる、ということは生きていく上では
不可能ですが、現状はいつでも変える事ができる、自分は変える能力を
持っていると信じ、その能力を磨くために学び続ける事が必要なのだと
教えてくれているようです。