読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!
https://shimirubon.jp/columns/1691046
『何が困るかって 』の
イラストブックレビューです。
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- 作者: 坂木司
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2017/12/20
- メディア: 文庫
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短いけれど不思議で、奇妙で、なんだか心に残る19の
ショートストーリー。
とあるカフェでの風景、ライブ感を求めてデモへの参加をはじめる
女性、都市伝説について、昔の同級生に聞いてみたら…など、
日常の風景に潜む澱んだ感情や、思わぬ方向からやってくる悪意に
ヒヤリとしたり。
一話数ページという話の中で、いろんな視点で綴られる内容は
読者の目線を逸らし、意外な結末へと導きます。それはさしずめ
見事な手品のようです。そんな風に何度か騙された後、さて
今度はどんな風に騙してくれるのか?と疑ってかかれば、見事に
素直な、ちょっといい話で終わってみたり。
著者の思惑に翻弄されてしまいます。不思議と嫌な気持ちに
ならないのは、その手際が鮮やかであることと、読者が置いて
いかれるようなタイプの絶望を投げかけてこないから。
あくまでも日常の中で、それはまずい!の一歩手前のあたりで
ストップしくれるから安心して読めるのでしょう。
いや、人によってはこれは怖すぎてダメ!というお話も2、3
あるかもしれませんが…。
それにしても、誰が語るのか、何を、どこを語るのか、といった物語の
『目線』を変えるだけで、日常の出来事がこんなにも事件性を帯びたり、
またあり得ないほど奇妙に感じられたりすることに驚きます。
怖さを誘う話の共通項は、目を瞑ること。一方だけ見つめ、他方が
見えなくなったまま進んでいく怖さを感じます。知らないうちに
他人を傷つけていた、知らないうちに罠にはまっていた、知らない
うちに立ち上がれなくなっていた…。ほんのすこし、方向が違った
だけなのに恐ろしい結果を招くのです。
目に見えているものは自分だけが理解していることであって、他人や
自分の身内でさえも全く異なった見え方をしているのかもしれない。
その差異が大きくなった時に起こることは…。怖い怖い!
そんなことを感じさせてくれるショートストーリーです。