ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

その場所には姉弟の『闇』が埋まっている

読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!

https://shimirubon.jp/columns/1691046 

 

らいほうさんの場所』の

イラストブックレビューです。

 

ネット占い師の長女・志津、市民センター勤めの次女・真奈美、
派遣で肉体労働をしている弟・俊。互いへの不満がつのる姉弟
元へ、次々と災難が降りかかる。これは庭の一角にある『らいほうさん』が
引き寄せたのだろうか。

 

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長女、志津はネット占い師。日々思いついた言葉をメモしては、
ネットに占いの文言をアップし、収入を得ています。
妹や弟への気遣いも細やかで、面倒見の良い、穏やかな姉、といった
ところ。

次女、真奈美はバツイチ。離婚してこのマンションに戻ってきました。
家でのんびり過ごす姉に苛立ち、市民センターでの職員同士のやりとりで
怒りを感じ、常に何かに対して不満を持っているようです。

末っ子の俊は、発達障害があり、職場人に面倒を見てもらいながら
なんとか肉体労働を続けています。見た目は体格の良い青年ですが、
心は少年であり、大きくなってしまった自分に苛立ちと悲しみを
感じています。

彼らが住むのはマンションの一階。庭付きであり、その一角には
『らいほうさん』と呼ばれる場所があります。ここをキレイに整えようと
力を入れているのは志津。何かが埋まっているようですが、それは
何なのか分からない、という謎を孕んだ状態で物語は進みます。

ある時、志津は買い物をしていたスーパーで、以前志津に占って
もらった、という女性に声をかけられます。
これをきっかけに、3人の元へさまざまなトラブルが発生します。

妹や弟を子供扱いし、一人前の人間として扱っていない事に対して
無自覚な志津。普段は穏やかに、満ち足りた様子をしているのですが、
謎の女性が現れてから次第に様子がおかしくなっていきます。

シェルターの中で暮らしているような閉塞的な3人の生活の中に
トラブルが舞い込んで来たことにより、目を瞑っていた事実や
気持ちがどんどん表に出てきます。『らいほうさん』は、そんな
ドロドロとした感情を埋めるための場所だったのかもしれません。

志津は、多くの人間と接することなく、自分の内面から言葉を紡ぎ
もっともらしい発言を綴っていくうちに、兄弟間に生じた小さな
ほころびが見えなくなっていたのでしょう。
他人経由で起こるトラブルによって、妹弟たちが、自分に想像も
つかないような感情を抱えていたことを理解するのです。

トラブルは、結局その原因が誰なのかがはっきりとしません。
『らいほうさん』の正体もわからないままです。志津は『らいほうさん』の
手入れをやめたため、そこに植えられた花は枯れていきます。
それは蓋をしていた黒い感情が流れ出た後の、渇き、枯れ果てた
残骸とも言えます。

姉弟は他者や環境を責めることをやめて、自分達だけで生きていく。
そんな答えを見つけます。『らいほうさん』への依存をやめたのは、
他者や環境への不満は、自分への不安に他ならないことに気がついたから
なのかもしれません。