ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

その世界へ身体ごと持っていかれる物語

読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!

https://shimirubon.jp/columns/1691046 

 

未必のマクベス  』の

イラストブックレビューです。

 

同僚の伴とともにバンコクでの商談を成立させた優一は、澳門マカオ)の
娼婦から予言めいた言葉をかけられる。「あなたは王として旅を続けなければ
ならない」。やがて優一は香港法人の代表取締役を命じられたが、そこには
底知れぬ陥穽が待ち受けていた。

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印刷会社の子会社として設立されたIT企業、Jプロトコルに勤務する優一は
東南アジアを中心に交通系ICカードの販売に携わっていました。
やがて香港法人の代表取締役を命じられた優一は、一見昇進したかのように
見えたのですが、過去この法人へと出向した社員は、自殺や事故死、行方不明
など、数名が不審な状況に陥っていたのです。

行方不明者は、なんと優一の高校の同級生であり、初恋の相手である真鍋
冬香でした。優一は、会社の監禁から脱出し、整形して身を潜めているという
彼女を助け、会社から自分自身の身を守るべく、立ち向かいます。

優一は、同じ会社の人間からライバル視されたり、羨ましがられたりして
います。しかし、彼自身は己の能力や出世についてあまり興味が
ないようで、そのくせ完全に流される事を良しとしない、「食えない奴」
なのです。ライバルから嫌われながらも、助けとなるアドヴァイスを
もらえているのは、そうした優一の人柄のおかげなのかもしれません。

何の変哲も無い一社員だった優一が、会社の監視下に置かれ、会話や
行動に注意を払いながら、逃げる事なく、そして一見激しい感情の
流れもなく、会社と対峙して生きます。 仲間でさえ信用してはならない、と
忠告を受けながら。

偽造パスポート、殺人の依頼、身辺警護、盗聴器などなど、アジアの
裏社会の様子が、香港の熱気を帯びた景色、澳門の光と喧騒と相まって
アクション映画を見ているようです。これが、とある日本の会社が
親玉となって進めている事だと思うと、フィクションでありながらも
背筋が寒くなります。

緊張したやりとりの中で、女性たちの存在は重要な役割を果たしています。
昔の初恋の相手、真鍋。現在の恋人、由記子。香港法人の秘書、森川。
頭が良く、1人でも充分やっていけそうな彼女らは、優一に対して素直に
愛情や好意を表現をしています。優一に巻き込まれ、危険な状態になろうとも
自分の力で道を選び、進んで行けるだけの強さと賢さを持っています。

シェイクスピアの戯曲『マクベス』になぞらえた、1人の男の数奇な運命。
陰謀と感情が渦巻く世界の中で、限りなく孤高に生きる男の物語であり、
女性への愛を捧げる物語でもあります。緊迫に満ちた裏取引やアクション
シーンの描写は、目の裏にハッキリと浮かび上がり、彼らがいる場所の
片隅に居合わせているような気分になるほど。物語の世界観にグングンと
引き込まれていく、読みがいのある物語です。