『彼女がその名を知らない鳥たち 』の
イラストブックレビューです。
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- 作者: 沼田まほかる
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2009/10/01
- メディア: 文庫
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8年前に別れた男、黒崎を忘れられない十和子。
その淋しさから、15も歳上の陣治と暮らし始める。
下品で地位もお金もない陣治に嫌悪感をあらわにしながらも
離れられないでいる。そんな時、黒崎が行方不明になったという
事を知った十和子は激しく動揺し、陣治が黒崎を殺したのでは
ないかと疑い始めるが…。
かつて黒崎にボロボロにされながらも、忘れられない十和子。
陣治の金で、アパートに住み、働くこともなく、DVDをレンタルしては
日がな一日中眺めている。その陣治に対しては、不潔であったり
へつらうような態度に苛立ちと嫌悪感と同時に、陣治への複雑な
愛情を感じたりしている。めんどくさい女性です。
一方、陣治は、以前は大手の建設会社に勤めていたのですが、
優秀でありながら高卒であった陣治は、会社では使いづらく、次第に
居場所を失っていきます。毎日のように愚痴をこぼす陣治に
十和子はサッサとやめてしまえ!とハッパをかけまくります。
このあたりでは、多少なりとも2人の間には愛情のようなものが
わかりやすく存在していたと思うのですが。
十和子は非常に不安定な精神の持ち主。人と目を合わせる事が
できず、近所の人ともろくに挨拶を交わせないほど。
黒崎が行方不明という連絡を受けた十和子は、激しく動揺し、
黒崎は陣治に殺されたのではないかと疑問持ち始めます。
そんな十和子が、黒崎に雰囲気の似た別の男性と接点を持った時。
それがトリガーとなって、あっと驚くラストまで、怒涛の展開を見せます。
十和子、陣治、黒崎…。どれもクズの集まりのようで、最低な大人たち、
という言葉がぴったり。しかし、彼らなりに相手を愛していることが
伝わってきます。
メチャクチャにされても、忘れられない愛。今の自分を救い出してくれる
幻を見せてくれる愛。伴侶のように、親のように、ただ包み込む事に
幸せを感じる愛。
眉をひそめるようなやりとりばかりなのに、こんなにも多くの愛が
この作品には潜んでいるのです。
衝撃のラスト読んだ後、しばし呆然としてしまいました。
そのタイトルどおり、読む者の思いが鳥となって大空を飛んでいって
しまったようです。残ったのは軽やかな闇。薄いけれども消える事の
ない闇なのです。そんな深い余韻を残す物語です。