ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

何かに突き動かされるような若者たちの姿を描く物語

オン・ザ・ロード』の

イラストブックレビューです。

若い作家サルとその親友ディーンは、自由を求めて広大な
アメリカ大陸を疾駆する。順応の50年代から反逆の60年代へ、
カウンターカルチャー花開く時代の幕開けを告げ、後のあらゆる
文化に影響を与えた伝説の書。

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兵役を終え、叔母とともに暮らしていたサル。
作家を目指して文章を書いています。そして、親友のディーンに
誘われて、退役軍人の給付金を貯め、ヒッチハイクをしながら
デンヴァーを目指します。

最初の旅は、ハイテンション。ニューヨークを出てから次々と
変わっていく景色。車に乗せてくれる人。飲食店にいた、
いかにもカウボーイな様子の男たちの、大らかで何も心配する事はない、
といったような豪快な笑い声にうっとりとして、彼の話を聞きたいと
思います。

見るもの聞くことが珍しく、目をキラキラさせ、トラブルに巻き込まれては
口汚い言葉を吐き、ビールを飲んでまた忘れ…と、青春そのもの、といった
光景です。ヒッチハイクが一般的であり、条件が許す限り、乗せてもらえる
ことが多い時代であったことにも驚きです。今では考えられないですよね。

そして、サルの親友であるディーンの元にたどり着くのですが、この
ディーンという男が非常にエキセントリック。子供の頃、親に捨てられ、
貧しい生活をした経験がある彼は、いいね、いいね!が口癖で、
思い立ったら即行動の男。

ディーンは妻と別れて別の女性と結婚する予定なのですが、別れるまで互いに
体の関係を保ちたいと、妻と今の恋人との間を数時間単位で行ったり来たり
しているのです。離婚が成立するやいなや、本当に愛しているのはコイツ
だったんだ!と元妻となった女性を連れ出してデンヴァーから出ていって
しまう。盗みは平気で働く。倫理感についてもナニソレ?みたいな、かなり
イっちゃってる人物です。

サルは根は真面目で、ディーンのそうしたカッ飛んだ姿に憧れ、時に彼を
守ってやったり、彼の考えをすぐそばで聞いていられる事に喜びを
感じています。歳を重ね、状況が変わりながらも何度も大陸を
横断する旅を続けていくうちに、若い頃共にバカをやったほかの友人たちは
ディーンの様子に呆れ、恐れをなし、離れていきます。

旅の途中、酒場で聞いた盲目のピアニスト、震えるアルトサックス、
淋しげなドラマーの演奏。魂を揺さぶられるような演奏を聴きながら、
興奮するディーン。

若者の溢れるパワー、破滅に向かって止められないスピード、自分が今後
どうなっていくかの焦燥感がそこかしこに転がっています。
苛立ちや諦め、絶望感が音楽によってシャッフルされ、細かくバラバラに
散っていく様子には臨場感があり、暗い酒場でひしめく男たちの汗の匂いまで
感じられそうです。

もうひとつ注目したいのは、広いアメリカの、1950〜1960年代の様子です。
ヒッチハイクや自ら運転する車で立ち寄ったり通り過ぎる町は、陽気な
イメージのアメリカとは様子が違います。決して豊かではなく、置かれた
環境の中で、目の前の事をひたすらこなしている人びと。そして、次第に
銃を持つ人間が増え、みな警戒心を強くさせ始める…。当時のアメリカの
変化していく様子が、ハッキリと感じられるのも、この作品の大きな特徴
だと思います。

頭の中の思考が溢れ出してきているような文章ですが、不快感はなく、
軽快なリズムを刻むように浸透していきます。
アメリカという若くて巨大な国。退役軍人という力の向ける先を
失った若者たち。熱いビートに乗って転がるように進む彼らの先に
在るものは何だったのか。未成熟な若者の姿がアメリカという国の
在り方とリンクする物語です。