『書店ガール 6(遅れてきた客) 』の
イラストブックレビューです。
彩加が取手の駅中書店の店長になってから一年半。ようやく
仕事が軌道に乗り始めたと感じていたところ、本社から突然の
閉店を告げられる。
書店を舞台としたお仕事エンタテイメント第六弾。
書店員を中心とした、出版社や作家など、本の作り手と売り手の
情熱と現実が詰まった書店ガールシリーズの第6弾です。
シリーズものは、徐々にその勢いが衰え、尻すぼみになりがち…
というイメージを完全に覆し、どの作品も時代と本、作り手と売り手、
そして買い手の立場を如実に表した、本好きな人であれば必ず
グッとくるツボを押さえた作品たちです。
今回は、取手の駅中書店の店長として抜擢された彩加が、スペースや
売り上げなど限られた条件の中で必死に工夫をこらし、成果をあげて
きているシーンからのスタート。バイトには、なんとラノベデビュー
した作家さんや、近くにある美大の学生もいることからポップや
フェアには工夫を凝らしたり、搬入や企画もバイトの裁量を重視
したりしています。それぞれがやりがいを見出せる恵まれた環境ですね。
その努力も甲斐があり、少しずつ売上が上向きになってきているところ。
そこで、本部から突然の閉店を告げられます。
大手の書店グループ内での、総括事情を検討した上での決定事項
ですから、どうにもなりません。そう、このシリーズ、個人レベルで
徹底的に頑張ってもどうにもならない状況が毎回出てきます。
それも、ただでさえ辛いのに、その中から何とかお客さんに楽しんで
もらえる点を見出して頑張るぞ!とか決意した瞬間にズドーンと落とされる。
これがね、すごく現実的だなあと思うのです。やる気があって、
なおかつ成果を出していても、会社の都合で奈落に落とされる。
ああ、事実だな、物語では済まされないレベルで話が展開されて
いるなあと、本当に身につまされ、共感してしまう。
だからこそこの作品がもっとも信頼出来、読者が頷くのだと思う
のです。登場人物が苦境を乗り越える偶然の要素は、ほんのわずか。
あとは限りなく、仕事に真摯に取り組み、妥協を許さない、彼らの
日常の姿勢の結果に他ならないのです。
もうひとつの目玉のテーマはメディアミックス。人気コミック→ラノベ、
人気ラノベ→コミック、人気ラノベ→アニメ化…。最近ではよくある
形態ではありますが、昔から問題の多いジャンルでもあります。
好きな漫画が映画化?好きな小説がドラマ化?又はアニメに?映像で
見てみたら、原作のライブ感やイメージが台無し…。
そこでも、マンガ、小説、アニメなどの各媒体の見せ方やスピードなど、
どういったところをメインとして見る側に伝えていきたいのか、という
作り手側の意図がとてもわかりやすく描かれています。マンガや小説が、
映画やドラマ、アニメになる事に、個人的には非常に否定的だったの
ですが、本作を読んで少し考えを改めました。
アニメにしろ、漫画にしろ、それぞれのフォーマットにおいて最高の形で
原作を見せたい。そんな思いで、作り手はいるのだなあと。そこに、
思い込みの激しい編集者やら、アニメの製作者やらが関わってくると、
着地点がわけわかんなくなってしまうという。
この辺り、 ラノベ担当編集者対アニメ製作会社のやりとり、すごく
むかつきます。でもねえ、視聴者とか、読み手のために、って言いながら
原作の世界観を著しく変えてしまうのってどうよ?見ている者がおもしろいと
思わない作品に仕上がるのなら、それって作り手側のひとりよがりの
都合でしかないからね。
作り手それぞれの事情があり、ひとりの思いではどうにもなりません。
そこは、関係者全体がそれぞれの果たすべき役割を理解しつつ、
最終的に読者や視聴者に最高の作品を届けるためにはどうすればいいかを、
擦り合わせていくべきなのです。某ケモノアニメ問題を彷彿とさせる要素も
あり、今メディアミックスは各版元もカンフル剤として作品を押し上げる
ための有力な材料である、と判断している部分も強いでしょう。しかし、
それは製作側を疲弊させる諸刃の剣であることも念頭に置き、長期に
わたって展開させる計画を策定できる版元と編集者が、作家を消耗させる
事なく高品位な作品を、読者に供給し続ける事が出来るかどうかが、
肝となるのではないでしょうか。