ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

生まれ変わったら、何になりたい?

なりたい 』の

イラストブックレビューです。

 誰もがみんな心に願いを秘めている。空を飛んで見たくて、
妖になりたいという者。お菓子を作りたいがために、人に
なりたいという神様。それそれのなりたいを叶えるために
巻き起こった騒動そして、そこから見つけた、若だんなの
ほんとうの願いとは。しゃばけシリーズ第14弾。

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神様たちを酒宴でもてなした若だんなは、来世は何になりたいかを
考えておくように、と神様たちから課題を与えられます。
今生では病弱で、何度も死にかけていて、妖たち仲良く
暮らしている若だんな。生まれ変わったら何になりたいのか?
考えている間にも、こうなりたい!と希望する人間や妖たちが
次々とやってきます。

いつの時代も、そして人ならぬ妖だって悩みを抱えているもの
です。不思議な事が大好きで、空を飛びたいから妖になりたい、
と願う人間。天狗の力を借りて飛んでみるのだが。裏テーマは
天狗同士の友情です。人間の寺に引っ込んだ、天狗の友人に
会いたいのに、できない。そんな天狗のジレンマを、若だんなが
上手にまとめます。天狗よし、人間よし、他の妖よし、の
三方よしの見事な策を出せるのは、それぞれの気持ちを痛いほど
理解できる若だんなだからこそ。細やかな心遣いと、それぞれの
立場への配慮が窺えます。

人の姿になり、菓子を作っては細々と売っている道祖神。時代の
移り変わりから、自分の置かれていた場所には人が通らなくなった。
ついては、お供えにもらっていたような菓子を自分で作り、人間に
売って暮らしていきたい。人間として生きていきたい、という道祖神
ところが血まみれで倒れているところを発見され、次には姿が
消えていた…。ミステリ調の展開です。

道祖神は、お菓子が好きだから作りたいのかと思っていたら、
お菓子を食べる子どもの笑顔が見たいのだ、と言います。人間に
なっても、人間を愛おしく思い、大きく包み込むように見ていて
くれているのだと思うと、なんだかじんわりと嬉しく、おなかが
温かく感じられるのです。

なりたいと願う思いは、人であれ神であれ、妖であれ、その数だけ
あるものです。望みがひとつ叶うということは、叶わなかった頃の
ものをひとつ失う事でもあります。望みを得る前の自分に戻る事が
できないとも言えるでしょう。そこまでの覚悟を持って神へ願いを
伝えているのでしょうか。神様との取引は決してやさしいものでは
ない。神様と若だんなの取り引きは、気さくながらも畏れある
やりとりで、人間たちの奢った気持ちに気づきを与えてくれるようです。
得るものと失うものは必ずあるのだ、ということを暗に教えてくれる物語です。