ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

その絶望に浸ることを許してくれる12の物語

絶望図書館 

立ち直れそうもないとき、心に寄り添ってくれる12の物語 』の

イラストブックレビューです。

 

絶望図書館には、世界中のさまざまなジャンルの話が
集められている。せつない話、とんでもない話、どきりと
する話。すべて、絶望した気持ちに寄り添ってくれるものばかり。
今の気持ちにピッタリな話がきっと見つかる。

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『人がこわい』『運命が受け入れられない』『家族に耐えられない』
『よるべなくてせつない』など四つのテーマのもとに、児童文学から
純文学にミステリ、エッセイまで、選りすぐった物語たちが
バリエーション豊かに掲載されています。そして、それぞれの物語には
どのような絶望なのかを短いタイトルをつけて示しています。

アンソロジーという方式は、選者の好みを押し付けられているような
気持ちになり、あまり好きではありませんでした。
先入観を持つことを恐れている部分もあります。
なるべく自分自身が本を読んだ時の気持ちを素直に感じたいのに、
物語の選者の思いを先入観として受け入れてしまうのでは?
などと思うことがあり。ことに物語に関しては自由な気持ちで
読み始めたいのです。

そんな、アンソロジー苦手と思っていた自分の感想は素直に『おもしろい』。
まずは児童文学から、三田村信行の『おとうさんがいっぱい』というブラックな
お話でガッチリと心を捕まれ、次に筒井康隆の『最悪の接触 ファースト・
コンタクト』というSFショートでおかしくも悲しい気分になり…。
掲載順序に気を使っているのはもちろんのこと、それぞれの作品についた
頭書きがいい。『人に受け入れてもらえない絶望に』『どう頑張っても
話が通じない人がいるという絶望に』『夫婦であることが呪わしいという
絶望に』…など、頁をめくるのにドキドキしてしまうような頭書きなのです。

図書館であるという設定で、各章が第一閲覧室、第二閲覧室…となっている
のも面白い。自分の好みだけでは手に取らないような作家さんや物語たちで
あることも良かった。思いっきりアンソロジーの恩恵受けていますね。
今日から意見変えます。アンソロジー万歳!

それにしても、絶望には実に様々な種類があります。
本書は絶望している人も、そうでない人も、いっしょに浸ることのできる
良書だと思います。人に理解してもらえない、心の奥でグルグルと
渦巻いている暗い気持ち。それは無理にキレイにしなくていいのです。
時にはそこにじっくりと巻き込まれることが、新たに動けるように
なるための準備期間になるのではないかなと思います。
すばらしい絶望の数々をぜひ体験してみてください。