ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

共感?反感?どっちにして惹きつけられる

寝ても覚めても』の

イラストブックレビューです。

 

謎の男、麦と出会い、たちまち恋に落ちた朝子。
だが、彼は姿を消してしまう。三年後、東京へ移り住んだ朝子は、
麦とそっくりな男に出会う。似ているから好きになったのか?
好きになったから似ているように見えるのか?
そんな朝子の恋の行方は。

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片付けられない。食器にカビを生やす。綺麗な服やアクセサリーが
好き。写真を撮るのが好き。とびきり美人というわけではない。
…と、少々頼りなくて、どこでもいるような普通の女性、朝子の
二十代前半からの十年間を描いていく物語。

陰のある魅力的な男、麦と恋におちた朝子。ふらっと出かけては
何時間も帰ってこない。朝子を守るためには暴力も厭わない。
ちょっと危ない部分を持つ麦ですが、そこには目をつぶり、
周囲からの忠告も耳に入らない朝子は、まさに恋愛ど真ん中。
おとなしそうな朝子ですが、意外と情熱的な部分も見せます。

そんな二十代の恋愛も、麦が戻るあてのない旅に出たことで
終わりを告げます。そして三年後、東京へと移り住んだ朝子。
住む場所、仕事、友人。何もかもが変わった環境の中で、麦に
そっくりな男、亮平に出会います。性格はもちろん違うのですが
どう見ても麦にしか見えない彼に、どうしても惹かれてしまう朝子。

二人はやがて付き合い始めます。月日を重ね、二人の関係も
穏やかに深まっていった頃、テレビ画面の中に、役者として活躍する
麦の姿を見つける朝子。数年ぶりに、大阪時代の友人と東京で
会った時に、亮平が麦と似ている事を指摘されました。こうした中で
朝子が選んだのは果たして…?

朝子という女性は、積極的に前面に出て行くタイプのようには
見えないのですが、そういうタイプがタチが悪い。
亮平と付き合う時にも、職場の女性が亮平の事を気に入ったと
しきりにアピールしていたのですが、それを差し置いて亮平と
交際するに至っています。

ここはどうして付き合ったのかが描かれていませんので、亮平が
一方的に朝子に惚れたのかもしれないし、朝子が猛アプローチを
かけて友人に抜け駆けして交際に至ったのかもしれません。
ここらへんを明らかにしないのが上手いなあと思います。この時点で、
少しもやっとしたものを感じますが、その後の付き合い始めた二人の
幸せそうな様子や、亮平の高感度の高さ具合に、気にならなくなって
いきます。

ラストに向けての展開はええっ!?となります。
なんだこの女は!?とびっくりします。こんな事する女性だった??
と、思いきやそんな女性像をイメージさせる描写はしっかり
外されています。物語の中で流れる大阪弁も、柔らかくて
暖かい雰囲気を出していて、彼女の黒い部分を上手に覆って
いるようです。

朝子に共感するか、それとも反感を覚えるのか。
どちらの男を選ぶべきか、そして自分だったらどうするか?
読み終えた女性は、口々に自分の感想を語り始めてしまう。
そんな力を持った物語だと思います。