ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

ゆとり最強伝説誕生なるか!?

時をかけるゆとり 』の

イラストブックレビューです。

 

就職活動生の群像『何者』で戦後最年少の直木賞受賞者となった著者。
その類稀なる観察眼で、夏休みや就活、社会人生活について
綴るエッセイ集。

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桐島、部活やめるってよ』ですばる新人賞受賞してデビュー。
『何者』で直木賞を受賞し、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞
受賞。早稲田大学文化構想学部卒業。

そうそうたる経歴を持つ著者、朝井リョウ
ニコニコ動画2ちゃんねる覗き、エゴサーチで自分についての情報を
チェックし、旅に出ればトイレを求めて奔走し、そして痔を患う。

なんとも自由奔放なイメージでありますが、ゆとり世代ど真ん中である
著者自身がゆとりをネタとしていいカンジにいじっています。
早稲田大学の学生として、ダンスサークルで活動し、夏休みは
友人たちと出かけて遊びまくり、就職活動におっかなびっくり
取り掛かります。

楽しそうなことを思いついたら速攻で取りかかる行動力を持ちながら、
気とお腹が弱く、トイレが近くになければ行動も精神も不安定に
なってしまうという繊細ぶりを併せ持つという、強いんだか
弱いんだかよくわからない人物です。

行動力の面で言えば、埼玉県本庄市から早稲田大学大隈校舎(新宿区)
まで仮装して歩くという地獄の100キロハイク、東京から京都まで
自転車で走破する地獄の500キロサイクリングなど、何をやって
おるのかと突っ込みたくなるような事を実践しています。
やろうと決めた瞬間はハイテンションで準備して、前日になるとああ、
トイレとかどうしよううわああ、などと考え込んでブルーになるという。

道中ももちろんトラブルの連続です。トイレ事情も漏れなく記載。
いやホントに漏れなくて良かったですね。自分もお腹弱いから
その気持ち、よくわかります。でも100キロとか500キロとか
自分の足で移動してみようと思う気持ちは良くわからないけれども。
若いってすばらしいですね。さすが早稲田、とか思ってしまいました。
なんか早稲田の人って元気すぎるイメージがあるので。

自身に巻き起こる出来事を、実に軽やかに語ってらっしゃる。
自分を下げて、結果リア充アピールにならないように、細かく
気を使ってもいる…って自分で言っちゃってるよ!
自分を卑下してる、いじけてる、ふざけてる、おちょくってる、
までいかないギリギリのところで品位を保っているというか。
いやらしくない程度で、狙ってないよ、という風に描写して
読者に突っ込ませる頭の良さと、抜群のバランス感覚を感じます。

リアルな若者の日常をちょっぴり覗いて、自分もこんなアホな事
やっていたなあ、いやここまではやんないでしょ!とツッコミを
入れながら楽しく読むことができるエッセイ集です。
自身をここまで晒し、かつ読者を楽しませる作品として仕上げてくる
朝井リョウという作家の文章力、物語以外の部分の描写の上手さ、
そして作家本人のキャラクターなど、あらゆる角度から楽しめる
作品なのではないでしょうか。