ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

言葉が発する色と感度の世界に心地よく引き込まれる

ヤモリ、カエル、シジミチョウ 』の

イラストブックレビューです。

 小さな動物や虫と話ができる幼稚園児の拓人。
彼の目に映るのはカラフルでみずみずしい世界。
ためらいなく恋人との時間を優先させる父親と、
待つことに嫌気がさしている母親、しっかり者の姉に
守られながら、大人たちの穏やかでない世界を冒険する。

f:id:nukoco:20180622231828j:plain

拓人は言葉の発達が遅れていて、大人の言うことや
早口で話された事を理解できないことがあります。
そのかわり、その人が発しているものや、その場に漂うものなどを、
音や色で感じているのです。言葉のストックが少ない彼の
思った事や感じた事は、物語の中ですべてひらがなで表記されます。

ピアノのレッスンに通うお宅の庭で、拓人はこのように感じています。

みずをまかれたばかりだからか、それらのつぶやきはぬれて
あわだっているようにきこえる。ぷちぷち、とか、ぞぶぞぶ、
とか、わらんわらん、とか。

拓人の思いを伝える第三者的な目線作者?が、拓人の感覚を
通訳し、ひらがなで伝えているので、平仮名ながらも幼児では
使わない表現も出て来ます。そこは読み手をスムーズに導くため
のものなのかなと思います。

そして、その色や音を表すオノマトペが心地よく、不思議と
その空気のゆらぎのようなものまでも伝えてくれるのです。
透明な繭に包まれ、その繭越しに世界を見ているような、そんな
感覚を覚えます。

拓人の美しい世界からの、大人たちの重々しい現実。
そこには浮気していても悪びれず、なかなか家に帰らない夫。
母親はそんな父親と別れる気はないが、待つことにも疲れ、
放心した状態になることもしばしばある。
話し合っても噛み合わない夫婦。
拓人はこんな空気も色や気配で感じとっている。

ジュースの感想を拓人に確認した母は、

かべのどこかをぼんやりとみている。いないかんじに
なっているのだとわかった。たくとはいまここにいるけれど、
ははおやはいない。

会話の成立しない拓人、帰ってこない夫に淋しさを感じ、
沈み込んでいくような母親に対して、拓人はこのように感じているのです。
ひらがなで表現されているために、悲しみさえもやわらかく
深く、そして哲学的のようにも思えてきます。

そんな拓人も自分を理解してくれる友達を得て、少しづつ変化して
いきます。繭越しに見ていた世界から、少しづつ現実の世界へと
歩みだしていくのです。現実で生きていく力を得るためには、
虫と話せる力や、人や建物が発するものを感じる力は、
少しずつ失ってしまうものなのかもしれません。

幼い子どもの中にはこんなにも美しい世界が広がっている。
大人に見えないものは、心の奥底の柔らかい部分を
やさしく撫でてもらっているような、あたたかで少し淋しいような、
そんな気持ちにさせてくれる物語です。