ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

美しく幻惑的な世界に隠された真実

湖底のまつり』の

イラストブックレビューです。

 

旅先で川に流された紀子は、助けてくれた晃二と一晩を過ごし
身体を重ねる。しかし、翌日になると晃二は姿を消していた。
地元の人に尋ねると、彼はひと月前に毒殺されたという。
では、昨夜の男はいったい誰だったのか。美しい描写と
折り重なる謎が深い余韻を残すミステリ。

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美しい山里の景色。突然姿を変え、荒々しい牙を剥き、あらゆるものを
飲み込もうとする河川。村で行われる最後の祭り。やがてダムの底に
沈みゆく村。

あらゆるピースが、丹念に、妖しい美しさ持って描かれています。
田舎の里山の自然や、村で行われる派手ではないが何か荘厳な
雰囲気を感じさせるお祭り。男女との絡みでさえも、薄暗い光の
中で、まるで夢かうつつかのように綴られています。

毒殺された男とは何者なのか。
ダム建設の反対派組織に属していながらも、いざとなれば身を翻す
ような狡猾な部分を持ち合わせていた男。そして、結婚してすぐに
この夫に死なれてしまった妻は、ダム建設の測量士でもあります。
この男は毒殺される前、妻以外の若い女性と会っていたようなのです。
この若い女性というのは何者なのか。

警察の調べによりさまざまな事実が明らかになっていきます。
そしてラストに向かうにつれ、そう来たか!という展開が
次から次へと訪れます。ちょっとびっくりするラストでしたが、
緻密に作られたパズルのピースが、ひとつづつはまっていく
様子は、爽快感さえ感じます。

構成だけが重要なのではなく、人物描写が細部までしっかりと
していること、そして山里や祭りなどの場の空気感まで細かに
表現されているからこそ、ラストに説得力が生まれ説得力が
生まれるのです。
最初から最後まで漂う重厚感、そして妖しく美しい世界観が
読む者を別世界に連れて行ってくれる、読みがいのあるミステリです。