ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

そんなに肉云々しくない男たちのおはなし

肉小説集 』の

イラストブックレビューです。

肉小説集 (角川文庫)

肉小説集 (角川文庫)


 

 

凡庸を嫌い上品を好むデザイナーの僕。
自分とは何もかもが正反対な彼女には、さらに強烈な父親がいて…。
不器用でままならない人生の瞬間を、肉の部位とそれぞれの料理で
彩った、短篇集。

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肉小説集、と言いながら、主人公は肉食系男子とは程遠い男性たち。
サラリーマンをやめて、憧れの任侠の世界へ転職した「俺」。
ヘタをうって、一千万の損失を出し、指を詰める危機に迫られます。
しかし、そこは自分の貯金で補填した後、ヤクザ会社から退職を
申し渡されます。サラリーマン時代の貯金がかなりあった様子。すごい。

無事に指を落とすことなく済み、旅行気分で訪れた沖縄の食堂で
地元の人間にからかわれて痛い目にあう、というお話。
最初から最後まで、自分の思っている事と実際に起こす行動が
ちぐはぐな男性。弱いのだが強い男に憧れてヤクザ業界へ。
そのくせ借金の取り立て1つも満足にできない。

ヤクザもクビになって訪れた沖縄では、地元の人間にヤクザと思われ
いい気になって虚勢を張ります。すぐに見破られて、逆に脅される
ような事態になってしまいます。その情けなさと言ったら。
本作で登場するのは豚足。その骨の多さ、ゼラチン質の多さが
生命の力強さをイメージさせますが、主人公は豚足が苦手。
食べづらく、油が多く口の中にいつまでも残るのが嫌なのだとか。

コッテリとした食べ物が苦手で、気が弱いのであれば
サラリーマン世界でやっていく方がよほど性に合っているだろうに
全く合わない場所で、無理に虚勢を張って、必要以上に自分を
大きく見せようとしています。自分にないものを見せられるわけが
ないのに何をやっているのかこの人は。最後には悲劇を通り越して
喜劇の感があります。

また、上品好みのデザイナーの話では、婚約者が上品とは程遠い
感覚の持ち主。彼女の父親がこれまたさらに上をいく豪快さ。
この、あまりの感覚の違いに、もはやこの結婚はなかったことに
した方がいいのでは…と苦悩する男性のお話。

主人公はとんかつなど油っこすぎるものは苦手。
揚げ物なら白身魚や野菜などが好き。上品な好みは、金沢の祖父に
叩き込まれた。彼女の父親と2人で食事することになった店は
とんかつ屋。出てきた大きなとんかつに、義父はソースを
ドボドボとかけるのであった…。

こうした草食系というか、上品できれいなものが好きだ、という
男性はこの頃は多くいるような気がします。それにしても、衝突を
避けるというか、歩み寄る機会を避けるというか、そんな
へっぴりごし具合をこの男性には感じます。

男性の、頑固なまでの保守的な部分を変えるのは婚約者の女性。
全く似ているとは思えない、義父と似ている部分を持っている、と
言うのです。義父は王様、彼は王子様。その心は自分の価値観を
絶対的と信じ込んでいること。

なるほど。好みが繊細であっても自分の好みを変えることが
できないのであれば、そんな言われ方をしても納得です。
彼女はそれを義父と彼の前で発言するものだから2人の男は
ポカンとした後に、互いに自分と相手の事を理解、納得して
距離を縮めていくのです。

受け入れられない状況や価値観に、闘う気力をあまり持たない
男性たちが、さまざまなきっかけで喰わず嫌いだったことに
気づいていく。逞しくはないけれど、等身大に生きる、
優しさが勝つ男たちの物語です。