ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

パワフルでしたたかな女たちの逃走劇

夜また夜の深い夜』の

イラストブックレビューです。

 

友達に本当の名前を言っちゃだめ。マイコにそう言い聞かせる
母は、整形を繰り返す秘密主義者。母娘はアジアやヨーロッパの
都市を転々とし、現在はナポリのスラムに住んでいる。
国籍もIDもなく、父の名も自分のルーツもわからないマイコは
やがて家を出て、ナポリの街でサバイバルな生活をはじめる。

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名前も住居も転々とし、なるべくその地で人々の記憶に
残らぬように注意して暮らす母親。たまに訪れる日本人の男性。
母は犯罪者なのか何なのか、怪しい匂いをプンプンと撒き散らしています。

マイコは、難民キャンプで育った七海という女性に親近感を覚え
彼女宛に手紙を書きはじめます。この手紙を書く、という行為ですら
母親に禁止されていたのです。18歳になったマイコは、母親の
厳重な秘密主義に疑問を持ちはじめます。学校にも行かず、
同世代の友達もいない彼女が、ある時巡り合ったのはなんと
日本のマンガ。

はじめて知る世界に、彼女は没頭します。そして、ますます自分の
生きている状況に違和感を感じるのです。
母と、近所のおじさんぐらいしか関わることのなかった世界から
めくるめく恋愛、ファンタジー、冒険などワクワクする情報を
どっかりと吸収してしまったわけですから無理もありません。

母とケンカし、家を飛び出したマイコは、仲間と巡り合い、
盗みをしながらナポリの街を駆け巡ります。
仲間の生い立ちも壮絶です。リベリアの内戦に巻き込まれたエリスは
父母と弟、姉を目の前で失い、自身は8歳で将校専用の娼婦に。
その将校を殺して、何とか逃げ、ナポリまでやってきたのです。
もう1人のアナは施設育ち。しかし、両親に捨てられて施設を
飛び出しました。

マイコはそんな2人の生い立ちを知るにつれ、マンガの世界の欺瞞に
気づきます。人を殺してはいけないと言うけれど、殺さなければ
生きていけない人に、そんなこと言えるのだろうか?と。
生きる環境が異なれば、倫理観なんてあってないようなもの。
何も知らないマイコがマンガという夢と創造の世界を知り、次に
日々生きることに精一杯な人間がいる現実を知るという、一気に
世界がひっくり返るような体験をしていきます。

そのうえで、冷静に自分の生い立ちを分析し、考えます。
己のルーツを知り、どうするか、どう生きるかを決断した彼女には
大きな価値観の変化が見られます。
状況に身を委ね、想像に胸を膨らませ、変化を待つだけだった1人の
少女は、現実を知り、受け入れ、その上で自分はどう生きるかを
自分自身の力で決め、生きていくのです女性へと成長を遂げたのです。

どんな状況でも生きることを諦めない、パワフルでしたたかな
女たちの物語です。