ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

膨大な知識と推理力を持つ 図書館のお仕事

おさがしの本は』の

イラストブックレビューです。

おさがしの本は (光文社文庫)

おさがしの本は (光文社文庫)

和久山隆彦の職場は、図書館のレファレンス・カウンター。
利用者の依頼で本を探し出す仕事をしている。
しかし、行政や利用者への不満から無力感に苛まれる日々を送っていた。
ある日、財政難による図書館廃止が噂され、和久山の心に仕事への
情熱が再びわきあがってくる。

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本を探すって難しい。
この本を読んでいるとつくづく感じます。
自分が出版社で働いていた頃、雑誌の問い合わせ窓口業務をしたことが
あるのですが、すんごく大変でしたもの。
創刊うん十年という長寿雑誌のため、問い合わせの多くが高齢者。
必然的に記憶がね、曖昧なんです。しかも広い範囲で。
雑誌作る方だって、過去記事を手を変え品を変え、バージョンアップしたり
して何回も掲載するもんだから、昭和何年ごろの話ですか?ってなるですよ。

時期だったら、ご家族がいる方ならたとえばお子さんが何歳くらいの
頃でしたか?などと問い合わせると、ああ、たろうが3歳の頃だから…
四十年くらい前だねえ、なんて回答が出てきます。
あと、質問者は料理記事だと思い込んでいたけれども、実は暮らし方が
テーマの記事だったとか。勘違いがゴロゴロあります。
ですから数通りの回答を用意して、質問者に確認を取ったりしていました。
データベース検索がなかったんですよ、平成の最初の頃は…。

図書館のレファレンスも似たところがあると思います。
というか、こちらの方が本の種類も多いし、書店には置いていないような
古い本もたくさんありますから、モノによっては鳥取砂丘の中から指輪を
探すようなもんでしょう。

この和久山という若手の職員がレファレンスを担当していて、
利用者のあらゆる相談に応じています。彼の良いところは、司書の資格を
持つものらしく、多岐にわたって知識をもっていること。
そして問題を解決するために手間を惜しまないことです。
何より、必ずしも正解を導き出すわけではないところがいい。
ちょっと気負った部分も持っていますから、そこを何度か挫かれる訳です。
若者が打ちのめされるのはいいですね(笑)。 応援したくなります。

そうした経験を積むことで、成長していく和久山ですが、
財政難により図書館廃止の噂が流れ、新しく副館長が赴任してきます。
副館長は廃止推進側。和久山とは全面的に対立する格好です。
しかし、本が好きであることを匂わせ、その博識ぶりは明らか。
根は同じものを持っているのに、相入れることのできない関係です。

この2人のやりとりも見どころのひとつ。
副館長に全く歯が立たないと思っていた和久山ですが、仲間の協力を
得たり、自分自身の力を極限まで搾り出し、さらなる力を得て、
闘いを挑んでいきます。

図書館という場所の存在意義を考えたことはありませんでした。
自分にとっては頻繁に利用するわけではないけれど、なくなると
困る場所、といったところでしょうか。
住民の文化的役割を担う、とか大義的な話を聞いてもピンときませんが
気になった情報をあらゆる角度から、徹底的に調べられる場所、
もしくは調べることを協力してくれる人がいる場所、ということ
が言えます。

たとえば、心の中にポッと思い出した、本の一部分。
タイトルも作者も分からない、でもその部分を読んだ時の湧き上がるような
気持ちは覚えている。それを見つけるためのお手伝いをしてくれる人が
レファレンスカウンターに座っていたら。そしてその本に再び巡り会うことが
できたら。図書館の職員はそういった利用者の宝探しに協力してくれて、
そして見つけた時の利用者の喜びを直接受けることができる、すばらしい
お仕事なのかもしれません。

本がもたらす知識と豊かな世界。検索では出てこないものをいっしょに
探してくれる場所。そんなことを教えてくれる物語です。