ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

カゴの中の鳥が生きていく世界

滔々と紅』の

イラストブックレビューです。

滔々と紅 (ディスカヴァー文庫)

滔々と紅 (ディスカヴァー文庫)


 

 

天保八年、飢饉の村から九歳の少女、駒乃が江戸吉原の遊廓へと
口入された。駒乃は吉原のしきたりに抗いながらも、花魁として
成長していく。忘れられぬ客との出会い、訪れる悲劇。
吉原を生き抜いた彼女が最後に下す決断とは。

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九歳で遊廓の世界へと足を踏み入れた駒乃。勝手に名前を
つけられたと言っては怒り、ありんす言葉が変だと嫌がる。
無力である少女ながら気が強くて跳ねっ返りです。
翡翠(かおとり)花魁のもとで吉原の世界を学んでいきます。

吉原における女の買いかた、遊廓で遊ぶ手順、花魁とのやりとり。
これらが詳しく描かれていて、へえなるほどねえ、と頷いて
しまいます。子どもの頃から吉原に入り、段階を経て花魁になる。
花魁になると駒乃のような少女、禿を数人抱えることとなり
彼女らの生活にかかる費用も花魁持ち。客が料金踏み倒せば
花魁持ち。厳しい世界ですね。夜の銀座の世界に通じるものが
あるかも。

そして強烈なのが遣り手ばばあと呼ばれる、見世の一切合切を
取り仕切るマネージャーのような存在のお豊。
遊女に病人が出れば容赦なく追い出し、ケチれるところはとことんケチり、
遊女がやらかせば全力で折檻する。これはヤクザというのがぴったり。
それが、女が女に対してする仕打ちなものだからエグい。
物語の中でスパイス的存在となっていていい味出しています。

好きな男ができても一緒になる事も叶わず、病気になれば追い出され
なお一層立場を下げて生きていかなくてはならない。そんな自分の
将来に絶望して自ら命を絶つ者も少なからずいます。
駒乃は飢饉の村から来たため、死は身近なものであり、恐怖の対象では
ありません。それでも目の前のことに怒り、喜び、直感的に行動する
駒乃は野生の、頭が良い動物といった印象です。

その能力を活かしてどんどんと出世を重ね、若くして花魁へと登り
つめます。そこでも心を揺さぶる出来事が起こり、彼女を
ある行動へと掻き立てるのです。
一見生きることに執着のないように見える駒乃ですが、日々目の前の
ことをこなししっかりと生きています。自分の将来に期待もしていないが
絶望もしていない。そんな軽やかな姿勢が、彼女に新しい未来を呼び込んだ
のかもしれません。

厳しい世界を生き抜いた女性の物語。したたかに、そしていつでも
自分というものをしっかりと持っている人間というのは、どこででも
生きていけるということを教えてくれるお話です。