ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

自分と世の中を客観的に見るヒント

こころ彩る徒然草 

兼好さんと、お茶をいっぷく 』の

イラストブックレビューです。

こころ彩る徒然草 ~兼好さんと、お茶をいっぷく

こころ彩る徒然草 ~兼好さんと、お茶をいっぷく

 

 

徒然草二百四十四段の中から六十六選び、現代の私たちに
語りかけるよう、わかりやすく意訳。

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徒然草は、鎌倉時代に書かれた吉田兼好によるエッセイ。
鎌倉時代といえば疫病が流行ったり、飢饉が起きたり、戦国時代へ突入したりと
誰もが明日はどうなるかわからないという大変な時代でした。
そこで出てくる無常観は絶望や諦めにも似た暗いイメージを伴うものです。

しかし、その中でもこの徒然草はそうした暗いイメージはありません。
世の中を一歩離れた位置から眺めることで、見えていなかった物を
見つける喜びや、人の心の機微ですら、いっときの事であるから
縛られるのは馬鹿らしいよ、もっと気楽に生きましょうよ、と言っています。
物事や自然現象、人の心は常に同じではない、だから苦しい時もあるけれど
ずっと苦しみ続けることもない、と同じ無常観でも前向きな印象です。

この徒然草の中から、鎌倉時代に限らず、現代にも響く内容を選んで意訳しているのが
本書です。例えば「勝負に勝つ秘訣は勝とうと思わないこと」
「上達する人としない人の違い」「人生の目的を果たすためにどうでもいいものは
キッパリと捨てて急いで行動すべき」「失敗しないためには…」など
自己啓発的要素もたっぷりとつまっています。
また、「今生きているこの喜びを日々楽しもう」といった
スピリチュアルな要素もあります。

人間の本質は意外と変わらないもんだなぁと思いつつ、
自己啓発的、スピリチュアル的、道徳的など多角的な目線から
なるほどと頷いたり、時には愚かな行為や人に対してちょっぴりシニカルな
物言いをしてみたり、わかりやすくおもしろく物事を書ける吉田兼好という人は
大したものだなあと改めて感心してしまいます。というか、
吉田兼好が直接語りかけてくれているような、この意訳の効果が大きいのかも。

法話の要素も含んでいるかとは思いますが、生きる事に困難や辛さを感じて
いる人には染み込んでいく内容なのではないでしょうか。
物事にとらわれすぎず、一歩引いて眺めてみる。
そうすることで思いがけず新たな発見ができるかもしれません。

法事の席でお坊さんから一言、またはお年寄りから聞くお話。
そんな、「そうかぁ」と思ってしまう、素直に頭と心に入る、
ちょっぴり楽に生きていくためのヒントがつまった一冊です。