ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

変化していく友人と自分と関係と

世界のすべてのさよなら 』の

イラストブックレビューです。

世界のすべてのさよなら

世界のすべてのさよなら


 
 

離れたくなかった。失いたくなかった。
人生は痛みによってそれらしくなっていく。
美大出身の4人の物語。

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会社員として頑張っている悠。
ダメ男とばかり付き合ってしまう翠。
ひたすら絵を描き続ける竜平。
体を壊し、人生の休み時間中の瑛一。
30歳になった彼らは少しずつ、以前と異なる友人の様子や
自分を取り巻く環境、そして友人との関係に違和感を
抱きます。

学生時代に仲の良かった友人と数年ぶりに会うと感じる
違和感てありますよね。価値観が変わった?大切なものの
優先度が以前と違う?
それはきっと相手にとっての自分もそうなのでしょう。
社会人として生きてきた環境がそうさせるのかもしれませんし、
将来がまったく見えなかった学生時代とは違って、なんとなく
自分の行き先というものが見えてきたから、なのかもしれません。

そうした小さな違和感を、それぞれの登場人物において
ていねいに描写されています。
広告代理店に勤める悠は、あんなに心を通わせたと思っていた
瑛一と、距離を置くことに安堵し、結婚相手に対して意識を大きく
寄せている自分を認めます。
結婚相手を選ぶことで、瑛一を斬り離そうとしている自分がいる、
と悠は感じています。そうした、嫌なことを考える自分を自覚し、
認める悠は、まっすぐな考えを持ち、また強い部分を持ち合わせて
いる人間のようです。

ダメ男とばかり付き合う翠は、弱音を吐かない女。
ただ、瑛一にだけは心を許し、時には愚痴ったり、落ち込んだ時には
そばにいてもらったりします。
瑛一とは恋愛関係にはならないようですが、こうした関係が成り立つ
のは、瑛一の他人との距離感の持ち方のおかげなのでしょう。瑛一の、
控えめながらあたたかい支えにより、自分の欠けた部分を彼氏で補う
ことをやめた翠は、次は瑛一の支えになりたい、と心から思うのです。
瑛一を頼る立場から、支える立場になりたい、と思うようになったのは
翠がこれまでの弱い自分に決別したとも言えるでしょう。

画家への道をひた走る竜平は、バイトをしながら制作を続けています。
絵の制作受注を受け、制作に取り組んでいく際に、自分の子供の頃を
思い出します。
そこで言葉少なに交わしたのを最後に、会わなくなってしまった女の子と
今になって連絡を取ります。それは当時の自分と彼女だから共有できた
ものを再確認し、失っているから得られるものを発見した瞬間だったのです。

そして、瑛一。この4人の友情は瑛一を中心としてまわっているようです。
誰とでも一対一で接することができる瑛一は、自分の弱さをさらせば人は
去っていく、と考えていたため、聞き役に徹しています。
以前会社を辞めようとした時に、悠の心配をはねのけるような言動をして
しまったのもそうした考えからでした。
いわば、自分の保身のために聞き役に徹していた自分を忌み嫌っていた様子。
でも他の3人はそんな瑛一に助けられていること、そして、今度は瑛一の力に
なりたいことを示すのです。

学生時代、未来が見えてこない、という意味で同じ方向を向いていた仲間が
それぞれ違う方向へと目を向け、歩き出す。
それは、これまでの考え方ややり方を捨てるような、一変したやり方かもしれません。
仲間や価値観、これまでの環境と離れて新たな旅立ちを目ざすのは、世界の
すべてさよならするような感覚でもあるでしょう。
でも切れるわけではなく、その関係性は太くなったり細くなったりしながら
続いていく、そう思えるし、思いたいのです。

一時的に失ったり、形を変える大切な友人との関係。
その関係性をベースに次の自分が作られていく。
そんな容赦ない事実に、ちょっぴり切なさを感じる友情物語です。