ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

キッズファイヤー・ドットコム  』の

イラストブックレビューです。

キッズファイヤー・ドットコム

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少数精鋭、短期決戦をモットーとするホストクラブの店長、
白鳥神威。いつものように仕事を終え、歌舞伎町から帰ってくると
玄関の前にいたのは見知らぬ赤ちゃんだった。

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母親に心当たりはないが、育てることを決意した神威は
IT社長の三國孔明と共に、クラウドファンディング
赤ちゃんを育てることを思いつきます。

子育ての費用をクラウドファンディングで募る。
ものすごい発想ですね。
具体的には赤ちゃんの成長を動画で見ることができる権利、進学について決定する権利、
思春期に説教する権利など赤ちゃんの人生に介入する権利を買うことができるというものです。

他人に、しかも何人もの人に自分の人生を握られてしまうなんて。
しかも自分のプライベートを切り売りされてしまうなんて。
 と、子を育てている親としては考えます。
ですが、子どもが欲しくても持つことができなかった人はどうでしょう。
孫が欲しいけれども、期待できない場合はどうでしょう。
身寄りがなく、1人で寂しく暮らす老人はどうでしょう。

養子を取ることもできないけれども、小さな人生に寄り添って
その未来を見てみたい。そんな需要はあるかもしれないなと思ってしまうのです。
それともうひとつ気になることあります。クラウドファンディングが成立し、
この赤ちゃんが多くの人に晒されながら成長すると、どんな人間になるのか。
どのような考えを持って行動するのか。
親や、親の愛情についてどう考えるのか。
倫理観はどうか。
その疑問は、第2部で解決してくれます。赤ちゃんが6歳に成長し、
活動する姿を見せてくれるのです。この構成は読者の期待に応えて
くれていてうれしいです。

子育ての出資を求む、という一見突拍子も無い企画を実行するのは
売春婦の母を持ち、親に愛された記憶を持たない神威。
彼は愛というものを信頼していませんが、現れた赤ちゃんに対しては
自分に対する試練だと理解し、解決しようと努力します。
素晴らしいのは、クラウドファンディングを思いついた時に、
お金儲けのために赤ちゃんを利用しようとしていないこと。
このシステムを利用することで、母でなくても、親戚でなくても、
若くても老人でも誰でもフラットに子育てに参加できる、と考えたのです。

「母親は苦労して子育てするもの」とか「子どもいない人は半人前」とか
いろんな先入観が溢れる世の中で、そんな思い込みに縛られずに
子どもという存在を近くに感じることができる。そうした仕組みを
提供したのかな、と思います。子どもを育てることに対しての「○○せねばならない」
という考えを取っ払い、子育てと直接関係のない層を取り込み
多かれ少なかれ自由に子育てに参加できる。

やり方は突飛。でも頭ごなしにダメだろ!と言えないのは
育児の先入観に対して不満を感じる層が多くいるからではないでしょうか。
これを企画した神威本人はきちんと育児していますし、収入も
あるのでファンディングに頼って生活しているわけではないのです。
とはいえ赤ちゃんのプライヴェートや人権侵害に当たるのでは?
という疑問も起こります。まさにこのクラウドファンディング
さまざまな議論を巻き起こす、子育て界における「大型爆弾」と言えるでしょう。

登場人物のキャラも立っていますし、ネットを利用した事業展開やSNSでの拡散など
内容も今という時代ならでは、というものでインパクトがあります。
ところどころホスト文化を学べる(?)部分も登場して、楽しく読み進める事ができます。
そして、読み終わった後で「子育てってなんだ?」「国が、自治体が、自分が子どもを
育てるってどういう事なの?」と考えさせてくれます。世代や立場によって読後感が
変わると思われますので、いろんな人にオススメして、感想をシェアすることをオススメ
します。