ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

その距離感が心地良い 男四人旅

敬語で旅する四人の男 』の

イラストブックレビューです。

敬語で旅する四人の男 (光文社文庫)

敬語で旅する四人の男 (光文社文庫)

 

 

友人でなく、仲良しでもないのになぜか一緒に旅に出る四人の男たち。
それぞれの再会、別れ、奇跡。
男たちの、つかず離れずな距離感が心地いい連作短編集。

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真面目な真島。バツイチ研究者の繁田。彼女の束縛が
キツイ仲杉。変わり者のイケメン、斎木。

真島と斎木が同じ会社。彼らは会話を交わしたことはなかったが
同じ中高一貫校に通っていたのです。斎木の大学時代の先輩、繁田。
繁田の飲み仲間の仲杉。
なんともゆるい繋がりの彼らが、ひょんなことから一緒に
旅に出ることになります。

彼らの、というか真島と斎木の関係が非常におもしろい。
二人は中高一貫校時代、顔を合わせて会話したことがありません。
ですが、真島は美術部に入部し、スケッチブックを片手に
先輩である斎木の造形の美しさに惹かれ、遠くから必至に彼を描いていたのです。
一方、斎木は出身校の数年分の卒業アルバムをチェックし、
数百人以上もの人物の顔と名前を把握していたために
真島の事を知っていたのです。これもすごい。

どうやら真島の気持ちは、斎木に対して性的なものではなく、
美しいものへの憧憬と、型にはまることのできない斎木の
つらさに寄り添ってあげたり、助けになってあげたい、という
素直な気持ちが働いているようです。

斎木はおそらくADHD(注意欠陥.多動性障害)であり、
特別枠採用として、真島の会社に入ってきました。
データ管理などの得意な仕事は非常に優秀で、調子が良いと
あっという間に仕事を終えてしまいます。
しかしこだわりが強く、不快な環境に置かれると動悸が激しくなったり、
また他人の感情などにも興味がないので、冷たい態度や言葉を発することもあります。

皆で旅行していても、リサーチは完璧。
時間や食事の手配などなど、漏れがありません。
その代わり興味がないことや、予定外のことには見向きも
しませんし、こだわりが受け入れられない場合は切れてしまったりも。
ADHDについてあまり理解のない自分でしたが、実際に共に
行動してみると、こういう事なんだ、ということを知りました。

大学時代の先輩、繁田も斎木の身を案じていた一人。
大学関係の仕事は優秀でありながら、人とのやりとりがうまくいかず、
会社に就職することになった経緯を知っていて、会社でうまく
やっているかどうか気にしていたようです。
自分はといえば、結婚して子供も生まれたが、仕事で東京に
行くことになり、妻に伝えたところ、京都から離れたくないから
一人で行ってくれ、となり、離婚に至ったという。

離婚した妻から、息子を山登りに連れて行って欲しいという連絡を
受け、仕事で行けない真島を除いたメンバーで京都へ向かい、
繁田の息子と共に山登りをします。繁田が結婚した相手、相手の家に
感じる違和感とは何なのか。

そして自身はいつも明るく、しかし彼女に束縛されている仲杉。
仕事が忙し過ぎて、何だか逆回りしているような気分に陥ります。
真島が気分転換に旅行に出かけよう、と声をかけてくれ、
一緒にでかけます。そこで仲杉が見たものと、自分が付き合っていた
女性の正体とは。

斎木はどのお話でもいい味を出しています。
思った事を、配慮とか空気読むとかそんな事は全然おかまいなしに
的確なコメントをズバッと出したりするのです。
斎木は、いい人、とかそういうカテゴリなのではなく、
斎木なんだからそうなんだよね、という事です。
感じる場所が、位置が違うから、怒ったり怒らせたりしてしまうことも
あるのだけど、データなどの記憶力がべらぼうに良くて、
愛想は基本なくて、相手に対する配慮は自分のマニュアルにある
箇所からしか引き出さない。そういう人なのだと。

周囲の3人がちょっとずつ斎木を気にかけていて、会社の人も
そんな彼に理解を示していて、そうやって斎木のことを理解して
くれる人がだんだん増えていく様子が、読んでいてうれしかったりもします。
そして、斎木の方でも相手の事を考えることが少しずつ
見られたりします。

四人が上でもなく下でもなく、平行に並んでいて、その距離を
広げてみたり、ちょっと詰めてみたりしている男たち。
そうした距離感が非常に心地よい物語です。