ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

命の重さはどうやって決まるの?

私の命はあなたの命より軽い』の

イラストブックレビューです。

私の命はあなたの命より軽い (講談社文庫)

私の命はあなたの命より軽い (講談社文庫)

 

 

東京で初めての出産を控えた遼子。
だが、突然夫の海外赴任が決まり、大阪の実家で
里帰り出産をすることに。
帰って見ると、家族の様子がなんだかおかしい。
私の家族に一体何が起こったのか。

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初めての出産を前に、夫の海外不妊が決まり、
会社に対する不満と育児に対する大きな不安が遼子を襲います。
産後はしばらく赤ちゃんのお世話以外、動き回らないように
言われていますし、赤ん坊と自分の2人だけでは
どちらかが体調を崩したりした場合、いったいどうしたら…
とあれこれ考えしまうのは当然のことだと思います。
出産前で感情が昂ぶりがちな遼子の様子が良くわかりますし、
遼子自身もそれを自覚していて、案外自分を客観的に見る目も
持っているようです。

東京で出産の予定を変更し、大阪の実家で産むことに決めた遼子。
帰ってみれば、父、母、妹が全く目を合わせない。
私と話すときは皆、自分の目を見てくれるのに。
赤ん坊が産まれることについても、どうも歓迎されている
感じがしない。それでも、自分と2人きりの時であれば、母も、
高校生の妹も体調を気遣ってくれるし、赤ん坊の話もする。
自分の気のせいかと思った遼子だが。

大阪での産院探し、久々の地元の友人との再会で、家族の違和感に
繋がるような情報が少しづつ出てきます。
どうやら妹が父や母と不仲になった原因は、それらの情報の中に
あるようです。完全に親の立場で読んでしまっている自分には
だんだん首を絞められていくような息苦しさを感じてしまいます。

全ての事実が明白となるのは、物語も終盤の頃です。
そこには、自分が考えていた子供像を娘に押し付け、それと
異なる行動はいっさい許さない父親、そしてそれに従うことしか
考えない母親が描かれます。これは、子どもの立場から見ると
ひどい親だな!子どもの味方になってやれよ!と思うかも
しれません。しかし、親の立場からすると、こんな反応も
仕方ないのかもな、と思うのです。親が考える子どもの姿の
キャパシティを完全に超えていますから。脳が思考停止して
しまったのでしょうね。

遼子は娘の立場から両親と妹を見ています。だから、家族の中で孤立していて
両親から娘ではないような扱いを受けている妹を守る、と決めます。
そして、自分が親になる、という立場から、親の気持ちも理解
することができるのです。今は、両親と妹が一緒にいては
何も良い方向に物事が運ばない、ということにも気づきます。
結婚して、家から出て行ったからこそ、一歩引いて家族を眺め
自分が親になる、という前提で親と子、両方の視点を得ることができる。
遼子は今回の事で広い視野と心を得たのかもしれません。

間も無く出産、という時期に妹のために奔走し、最終的には
東京で出産した遼子。妹もしばらく東京で一緒に暮らすことになり、
時を経て、両親と妹の関係も少しづつ改善していきます。
愛しすぎるもの同士は、時に距離を置くことも必要なのかも
しれないな、と綺麗に終わるかと思いきや。
そのラストに背筋がゾワリとします。
え?今までのできごとって?妹は本当はどんな子だった?

父親、母親、姉、妹。
肩書きに隠れて見えない素の姿はどんなものなのでしょうか。
本人にしてみれば、いつも晒しているものなのに、周りが
見ようとしていないだけなのかもしれません。
そんなことを感じさせるちょっと怖い物語でした。