ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

不器用でまっすぐでオタオタしていて、そして愛しい物語

ビオレタ』の

イラストブックレビューです。

([て]3-1)ビオレタ (ポプラ文庫)

([て]3-1)ビオレタ (ポプラ文庫)

 

婚約者から突然別れを告げられた田中妙は、ひょんな事から
雑貨屋「ビオレタ」で働くことになった。
そこは「棺桶」なる美しい箱を販売する風変わりな店だった。

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人の発言を先回りして想像し、言いたいことを言わなかったり
ごめんとあやまってしまう妙。そのくせ、感情が爆発して大声を出して
しまったり、表情に気持ちが表れてしまったり。
何とも子どもっぽくめんどくさい女性ですが、なぜか憎めない。
それは、とても素直な一面を持っているから。

自分の面倒を見てくれた雑貨屋の店長、菫さんと仲間になりたい。
とりあえず付き合った相手を本気で好きになりたくない。
誰かに必要とされたい。

隠そうとしても態度や表情に表れてしまう妙は、子どもっぽくもあり、
でも子どもじゃないと自覚しているから、自分で何とかしようと
足掻いています。しかも不器用だからうまくいかないのです。
そんなところが読者の共感を呼ぶのだと思います。

この雑貨屋「ビオレタ」には棺桶が売っています。
お客さんは埋めたいものをその棺桶に収め、蓋をし、
店の庭へ埋葬するのです。

そうしたお客とのやりとり、身体も態度も大きな店長の菫さん、
菫さんの息子、とりあえず付き合った彼氏、そして妙の家族。
さまざまなな人たちと日々を過ごす中で、失恋の傷をぶり返したり、
治ったと感じてみたりします。

やがて妙は、いろんな人に愛されていることに気づいていきます。
それは、周りの人が教えてくれたのではなくて、妙自身が
心を開いて周囲を眺める事が出来るようになったから。
自分を縛っていた価値観から解放されて、そのままあることを
自分にも他人にも許したこと。
それに気づいた妙は、体は小さいけどひとまわり大きな人間へと
成長したのだと思います。

物語全体が穏やかながら途切れさせず、時にクスリと笑わせてくれるような、
心地よいリズムを生み出しているのは、登場人物たちの会話によるものです。
過去を話すときは突然敬語になる菫店長をはじめ、妙も昭和っぽい
独特の言い回しをしたり、彼氏からのお誘いに対する返事とかがおもしろくて、
思わず吹いてしまいました。

とても心地よく世界に引き込んでくれて、クスリと笑い、ちょっぴり泣いて。
心がジワリとあたたかくなるような、そんな物語です。