ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

先生が生徒であり 生徒が先生である

先生と僕 』の

イラストブックレビューです。

先生と僕 (双葉文庫)

先生と僕 (双葉文庫)

 

 

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生活している環境なんかで読みたい本の傾向が変わります。
若い頃はとにかくミステリ好き。
謎が解決していくくだりにワクワクしたり、
登場人物が殺害に至るまでの心境が不思議であったり。
その後はもっと重い感じの、今で言うイヤミス系にも
ハマったりしていまいした。
なんというか、今思えば幸せでのんびりした生活をしていたから
本の世界で刺激を求めていたのかも?
まあ殺人事件に巻き込まれるのはゴメンですが、非日常的な事が
どこかで起こっているのだ、それに比べて平凡な日常はなんて
幸せなのだろう、と思ってたのかもしれません。

結婚して子供が産まれると、状況が変わりました。
イヤミス系を読んでイヤな気持ちになるのも、これまでは人生において
スパイス的に効くので利用していたのですが(人の意地悪な部分を見て
自分はこうはならないと思ったり、はたまた一歩間違えればこれは
私なのだと思ったり)出産後は緩んだ骨盤と心のせいなのか、
どうもこのスパイスの効きが強すぎるように感じてきました。

映画なんかも殺人が出てくるようなものは一切ダメ。
自分で言うのもなんですが、考えられないくらい怖がりになって
しまったのです。そう、この本の主人公、二葉君のように。

大学生の彼は極度の怖がり。その怖がり方とは、想像力を駆使して
物事が悪くなる方へとひたすら考えていくというもの。
狭いエレベータに乗れば、突然ハコがガクンと止まり、
この息苦しい空間に閉じ込められ、ひたすら助けを待つうちに
火災が起こって狭いハコの中は徐々に黒い煙が入り込んできて…
…といった具合に。

怖がりの二葉君が家庭教師として勉強を教えることになったのは
中学一年生の隼人君。見目麗し美少年であり、成績も優秀。
そして大のミステリ好き。

ふとしたきっかけで出会った2人が、日常に起こるちょっとした
謎を解いていきます。頭の回転が良く、世情に詳しい隼人君が
ホームズ役として先頭に立ち、二葉君がワトソンよろしく情報収集を行います。
二葉君には、目にしたものを写真のように画像として記憶する
という特技があるのです。

美少年で頭が良く、世の中に詳しい中学一年生と、普通の容姿で
頭も飛び抜けていいわけでなく、とっても怖がりの大学一年生。
歳の離れた2人が、次第に友情を育んでいく姿に心が温まります。

事件は日常で起こる内容ですが、都会特有?な描写です。
二葉君がこれだから都会は怖い!感じる箇所がいくつかあるのですが
そんなに違うのか?少々首をかしげてしまいました。
隼人君の都会的スマートぶりを引き立たせるためには仕方のない
ことなのかもしれませんが。

具体的には万引、家出、宗教勧誘など本当に今どこかで起こっているような
出来事たちです。頭が良くてネットで世間の情報を詳しく知る
隼人君は、大好きなミステリや、自身の知る情報から推理し、
二葉君の情報を駆使して解決します。お見事ですが、まあ
可愛くない部分もあります(笑)。生意気だからねえ。

でも、のんびりした二葉君だから、そんな隼人君とうまくやって
いけてるのでしょう。人や物事の裏の裏まで見えてしまう人間にとっては
表も裏もない人間は、とても惹きつけられる存在だと思うので。

二葉君は、隼人君の家庭教師ですが、隼人君は二葉君の
ミステリの先生になります。怖がりな二葉君のために、殺人など
怖い表現が少ないようなミステリを探して貸してくれるのです。

本の貸し借りって、親密な時間が生まれますよね。
自分も学生時代に友人とミステリの貸し借りをしていた事を思い出しました。
読んだ後にはもちろん感想を伝えあったりして。
そこが気になるのか!そういう解釈があるのか!
と非常に楽しく、有意義な時間でありました。

作家、坂木司さんもそのようなきっかけを読者に与えてくれたようです。
古典的ミステリから現代のものまで、二葉君に勧めるだけあって
連続殺人事件みたいな怖いのは入っていません。
懐かしいタイトルあり、はじめて見るタイトルあり、
この先生と僕をきっかけにして、また新たなミステリに出会えることに
学生時代に友達と本の貸し借りをしていた時のような、ワクワクした
思いを感じています。二葉君同様、怖がりの自分にはちょうどいいですね!
また、同じ理由でミステリを敬遠している方にもおすすめできる
ラインナップかもしれません。

1つの本の中から別の本につながっていく。
知っている本が別の本で紹介される。
そんな事が自然に行われているのが本の世界。
だからどこまでもどこまでも広がっていくのですね。
中学生と大学生の友情。本と本の結びつき。
ゆるやかなつながりが、こころをあたたかくする。
そんな物語です。