ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

気が付けばいつもそこに酒があった

飲めば都』の

イラストブックレビューです。

   

飲めば都 (新潮文庫)

飲めば都 (新潮文庫)

 

 

人生の大切なことは、本とお酒に教わった。
女性編集者、小酒井都は日々酒を飲み、原稿を読み、
好奇心の赴くまま突き進む。

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お酒は不思議な力があります。
気分が良くなり、人と人の距離を縮め、コミュニケーションの
潤滑油になることもあれば、普段では考えられないような行動を
起こしたり、それをまた覚えていなかったりと、人との軋轢を
生むツールとなってしまうこともあったり。

お仕事をされている方、されてない方、以前していた方。
お酒にまつわる失敗はありますか?
ひと昔前は、連日飲みに行くのは当たり前、飲まない日が
あればかえって心配されて… 飲まない人は珍獣のように
扱われていました。私がいた職場だけでしょうか?
今は職場内で飲んでも経費はもちろん出ませんし、自費で行こうとも
無理に誘えばパワハラだと言われてしまうので、こんなことはないと
思いますが、それでも出版業界は今でもお酒ととっても縁が深いところの
ように思います。

これはそんな出版業界で編集者として奮闘する一女性のお話です。
編集者という生き物はとても体力があり、打たれ強く、
好奇心の向かうところへどこまでも突入していく生き物です。
主人公、都もまさにそんな女性です。
新人時代は酒の席で先輩に対してやらかしてしまいますが、
それもご愛嬌。酔っ払いを見慣れている人たちは、酔っ払いに
対して寛大なのです。ある程度は。
ていうか覚えてなかったりしますしね。

酔っ払いのあるあるエピソードを、当事者になったり見る側に
なったりしながら、都は立派に編集者として
成長していきます。
夜を徹して入稿作業の後に打ち合わせたり、休日やトラブルを
次の企画に当て込んでみたり…と仕事もプライベートも
区切りがない都。
肉体的疲れはあるけれど、仕事の達成感やネタになるかも、と
事象を追いかけるワクワクさにはかなわない!
という思いを全身から発しているようです。
つまり、仕事が好きなんですね。

上司や先輩、作家さんたちとのやりとりの中で、人間関係を学び、
仕事を学び、人生を学びます。
うまくいかなくて沈みがちな時でも、この都と、先輩・上司らとの
交わす会話がすごく良くて、胸にジンときます。
ふだんは言葉の薀蓄について、先輩から嘘のようでホントに嘘の
話を聞いたり、駄洒落が飛び交ったり、上下関係も堅苦しくなく、
ユーモアを交えた歯にもの着せぬ物言いが飛び交います。
だからこそ、真剣に相手の事を思う発言はいつもの軽いやりとりとの
差から、余計にグッとくるのです。

ほかにも仕事や飲みの席での会話のやりとりや、都の心情の語りなど、
言葉選びのセンスがいいです。
まさに軽妙洒脱という言葉がぴったり。
言葉で遊んでいるような軽さと楽しさ。それでいて
軽薄に感じさせない品の良さを漂わせています。

編集者として成長し、そして恋をする都も、まさに彼女だから
こういう恋になるのね、という展開。
強く、楽しく、豪快に、しなやかに。
仕事ってやっぱり楽しんだ者勝ちだな!
素直にそう思える、元気がもらえる物語です。