ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

濃い影の背景には強い光がある

光の帝国』の

イラストブックレビューです。

   

光の帝国―常野物語 (集英社文庫)

光の帝国―常野物語 (集英社文庫)

 

 膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を知るちから、
近い将来を見通すちから。
常野とから来た、と言われる彼らにはそれぞれ不思議な
力があった。

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常野物語、というタイトルに何となく聞き覚えがあり、
気になっていたのですが、巻末の久美沙織氏の解説によれば
柳田國男遠野物語を意識したものだろう、とのこと。
民話の宝庫と呼ばれる東北の地域のどこか…。
不思議な出来事や生き物が、人間と共生する世界です。
豊かな自然の風景と、なぜかしっくりなじんでいます。

常野と呼ばれる人々は、その特殊な能力ゆえ、一般社会から
はみ出ないよう、最新の注意ををはらって生活しています。
一方で、自らの能力を高める努力も怠りません。
幼い子どもなどは、その能力を人前でさらしてはいけない
意味を理解できず、さらに感情が高ぶると力をコントロールすることが
難しくなり、うっかりと力を出してしまうことがあります。

彼らが特殊な能力を持つ理由はなんなのでしょうか。
その能力ゆえに苦しいことや辛いこともたくさん起こります。
表題となっている短編、光の帝国は太平洋戦争の頃のお話。
己の持つ特殊な力を持っていることもあり、世間で生きていくことが
難しくなった常野の
子どもたちが、山の奥で老人の教師とともにひっそりと
くらしています。

そこへ、日本軍が彼らを拉致しようと迫ってきます。
その能力を戦争に活かそうとしていたのです。
戦争中、ということもあり、充分な助けを得ることもできず
悲しい結末となります。
彼らは毎晩、お祈りの言葉を呟いていました
あのまばゆい光が生まれた場所へ、みんなで手を繋いで帰ろう。

何もかもが生まれてくる世界。
何の区別もなく、ただ皆が存在している、そんな静かな
満ち足りた世界に
彼らは帰ることができたのでしょうか。

特殊な能力を持つ彼らは、とても穏やかで知的な人々です。
そんな彼らが悩み、苦しみ、戸惑いながらも自分の運命を
受け入れて覚悟を持って歩いていく姿に胸が打たれます。
多くの苦しみを経験しているからこそ、他人の苦しみや
悲しい気持ちに敏感であるのかもしれません。

将来が見える山、都会の片隅にある小料理屋、会社の
オフィスに高校の校舎。
シチュエーションや登場人物たちが、時を変え場所を変えて
その能力を使い、時にはその能力を目の当たりにしながら
生きていきます。

特殊な能力を持つからといって、かっこいいヒーロー!
というわけではなく、ひとりの人間として思い悩み、そして
覚悟を決めて生きている人たちの物語です。
最後に、また何らかの出来事が起こるに違いない…
という余韻残して結末を迎えます。

今後、誰がどのように戦っていくのか。
また戦わないにしても、どのように生きていくのか。
どこまでも彼らを見守っていきたい。
そんな風に思わせてくれる物語でした。