ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

心が揺さぶられる 「言葉」の力

『本日は、お日柄もよく』の

イラストブックレビューです。

 

本日は、お日柄もよく (徳間文庫)

本日は、お日柄もよく (徳間文庫)

 

 OL二ノ宮こと葉は、幼なじみの結婚式で
涙が溢れるほど感動するスピーチに出会う。
それは伝説のスピーチライター、久遠久美の祝辞だった。
久美のもとへ弟子入りし、スピーチを学ぶこと葉。
そこへ、政権交代を叫ぶ野党のスピーチライターに
抜擢された!

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 そんな彼女が感銘を受けたスピーチとは。
幼なじみ、あっくんの父親がかつて発した言葉を、
おそらく息子にもかけるであろうその言葉を手向けた女性。
会場は一瞬にして、新郎のことを想う亡き父親の姿を
その脳裏に浮かべ、心から新しい夫婦をお祝いしたい気持ちに
させてくれたのです。

作中、結婚式でのお祝いスピーチは、久美が新郎に向けたものと、
こと葉が会社の同僚に向けたものがあります。
どちらもお祝いするほう、されるほうの気持ちがぎゅっと
詰まっていて、とてもあたたかい気持ちになり、涙が出てきて
しまいます。自分がこの会場にいたら、「ああ、いいスピーチだなあ。
新郎新婦と友人は、すごくいい関係なんだなあ」と、自分もその場にいれた
こと、彼らの幸せのおすそ分けをもらえること、彼らと共に
祝えることに幸せを感じると思います。

後半は政界への進出を決めた幼なじみの、スピーチライターを
引き受けることになったこと葉。政治の世界では、やはり状況の
調査と分析が必須です。スピーチライターという仕事は、
スピーカーが政治家であれば政治や世論を、会社の社長であれば
その事業内容や実績、目標などなど、多岐に渡って把握せねば
ならないことが多いようで、びっくりします。

スピーチ内容にしても、スピーカーが普段使わないような言葉を
出すと、聞く方は違和感を感じます。そして、聴き手にはっきりと
伝わる言葉を選ぶ必要もあります。ですから、聴き手がどんな世代、
性別、層なのかなども考慮せねばなりません。

大変なお仕事ですねえ。
こと葉は、まだ二十代ですから、勤めていた製菓会社を辞めて
スピーチライターの仕事に専念すると言っても、まだまだ経験が
足りません。師匠の久美の力を借りながら、懸命にこなしていきます。

自分には何の取り柄もない、と思っていたこと葉が、こんなに夢中になって
スピーチライターの仕事に取り組んでいるところを見ると
胸が熱くなります。大学を出て、特にやりたいこともなく、
それなりに名のある会社で、できればのんびりやっていきたい。
そう思っていたこと葉。

しかし、衝撃的なスピーチに出会ってからは、普段以上の行動力を
発揮し、初めてだらけで、しかも緊張するような場面を何度も
乗り越えていくのです。

会場がひとつになる。そんな言葉の力に魅せられて、紡ぎ出す
こと葉の言葉は、聴く者をハッとさせます。
それは、言葉の力を理解し、大切にする 彼女の真摯な気持ちが
聴く者に伝わるからなのだと思います。

スピーチでこんなに泣かされるとは。
そしてそれは、心地よい涙なのです。
言葉を共有することで、気持ちを共有できる。
そんな素敵な体験をさせてくれるお話です。