ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

その未来は過去の「私」の手にかかっている

『未来へ……』の

イラストブックレビューです。

 

未来へ・・・・・・

未来へ・・・・・・

 

 成人式を迎えた娘からの要望は、
『かなちゃんのお仏壇を出して。』
15年前、遠足のバス事故で亡くなった双子の姉、香苗。
彼女の仏壇を出して欲しい、と妹の菜苗は言います。
その日から、母親である若葉は、不思議な夢を見るようになりました。
香苗が亡くなる数ヶ月前の日々を連続して見るようになったのです。

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80年代、新井素子さんの作品をかなり読んでいた記憶があります。
残念ながら内容はさっぱり覚えていないのです。
ただ、SFっぽいけど理屈は難しくない。
主人公が出来すぎるわけではなく、身近な雰囲気で、自分の力で未来を
切り開いていく。そんなイメージだったような。

書店で今回の本を見つけて、懐かしくなり手に取りました。
(2017年4月15日ハルキ文庫より上下巻で刊行)
今でも活躍しているんだな、と嬉しい気持ちもあり。

そして、読み進めるうちにああそうだ!こんなんだった!!
と思い出してきました。それは一人称で語る!
話題が錯綜する!戻ってくる!行間…

こうだったな…。そんな気がするリズム感。
当時はテンポがいいと思っていた気がするのですが、今の自分には
読みづらいですね。主人公である、双子の母親若葉は40代から50代
くらいだと思うのですが、どうも人物像が浮かばす、共感しにくい。
もっと若い方のように感じる部分もあったりして。

母親として子供に対する熱い思いを持っているということは
充分に伝わります。主婦として優秀なのもわかるのですが
一人称だからでしょうか。
そう思ったのだ。私が。だから。
こういった表現が多く、オレオレ感が強くて疲れます。

娘である菜苗。この子の口調もすごい。
「ふみー」「うみー」「うにー」「おかしいと思うのー」「なのー」
…イラつく(苦笑)。
後半に向けて、彼女がすごい活躍をするから、その口調によって
ギャップ萌えを感じさせる設定なのかな?と思い、我慢して
読み進めてみました。

うーん、確かに頑張って活躍したけれどもその口調によって
引き立つほどではない。
今の自分にはその口調は過剰な演出に取れるし、登場人物に
共感できない一因になっているように思います。

独特の口調、一人称での心情を多く記した記載。
この頃ではあまり見ない、めずらしい表現かもしれません。
作品内容については、主人公が、眠る時に夢を見ることにより、
過去の自分にメッセージを送ることができる事を発見。
亡くしてしまった双子の姉を事故に合わせないために
過去の自分にメッセージを送り続けるというもの。

メッセージの伝わり方も完全ではなかったり、過去の自分から
反発を受けたりと様々な障害が起こります。
頼りないはずの娘、菜苗からの助けも受けることになります。

過去を変えてしまったらどうなるのか。
自分の娘だけ助かればいいのか。他に事故で亡くなった人たちは。
亡くなった何十人かの人々がみんな生き残ったらどうなるのか。

そこのあたりも上手に着地したラストだと思います。
ストーリーの流れや、SFファンタジーとしての構成は
スッキリとわかりやすく、読みやすいです。

登場人物たちのセリフなどが80年代っぽいので、これが
現代風にもう少し抑えた雰囲気でやりとりしてくれたら、
個人的にはとっても素敵な作品になったのかなと思います。