ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

静かで熱い、恋愛物語。

『レインツリーの国』の

イラストブックレビューです。

レインツリーの国 (新潮文庫)

レインツリーの国 (新潮文庫)

 

 

きっかけは忘れられない本。
そこから始まったメールの交換。
どうしても彼女に会いたくなった伸。
返事を渋る彼女、ひとみとようやくデートへと
こぎつけたのだが。

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ハンドルネーム『ひとみ』さんは、聴覚障害を持っています。
耳に補聴器を付け、低い音は聞き取れますが、高い音は
ほとんど聞き取れません。
一方、ハンドルネーム『伸』は、普通の男性。

はじめてのデートで、ひとみのことが今ひとつつかみきれない伸。
別れ際、彼女の耳が聞こえていないことを知り、愕然とします。

一方、ひとみも自己嫌悪に陥っています。
殻に引きこもろうとしてしまう自分、自信のない自分が、伸に
近づくことに恐れを感じてしまうのです。

物語の中で、耳が聞こえないといっても、様々なタイプがある、
ということを説明しています。
生まれた時から聞こえないのか、後天的に事故や病気で聞こえなく
なったのか、補聴器をつけると聞こえるのか、聞こえないのか、
その音域は高いのか、低いのか。

そして、音が聞こえないために、背後からの気配を感じられない。
警告音などがわからないことがある。
1人との対話であれば口元を見て会話できるが、数人と会話と
なると、内容が聞き取れないので会話に参加できない。

具体的な事例がいくつも出てきてハッとしました。
目の見えない人は杖を持っているから、見ればわかるのだけど、
見た目だけでは他の人と同じように見える、耳が聞こえない人に
対しては、注意を向けたことは今までなかったかもしれません。

この伸という人は、すごくいい男ですね。
他の女の子が狙ってくるのもよくわかります。
広く周りをよく見ることができる。客観的に物事や人を見る目を持っています。
そして、目の前の人のちょっとした気持ちの変化にも理解を示すような、
細やかな心づかいもできるのです。

こんな出来た男がいるのかー!と声をあげたくなりますが、
彼の過去を聞くとなるほど、と思います。
心が張り裂けそうなくらい、悲しい思いを抱いている人間は、
他人に対してやさしくなれるものなのかもしれませんね。

そんな彼も、いじけてめんどくさい状態にこじれてしまった
ひとみさんに手を焼いて、キレてしまうことも。
それが却って、2人の関係を均衡にしていくようです。
『何度もケンカしようや』って伸のセリフ、素敵すぎます。

有川浩に多いドタバタラブコメとは違って、しっかりした彼と、
大人しめな彼女が織りなす恋愛物語です。
静けさが漂う雰囲気ですが、その中でも2人の気持ちがぶつかり合い、
反発し、そしてまた寄り添っていく展開が熱くて、これからの
2人を応援したくなるのです。